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加藤慶二

政治資金規正法の改正論 政治家本人の責任(連座制?)について

現在(本コラム執筆時:2024年5月22日)、政治資金規正法に関する改正論議が始まっています。

2024年5月17日に、自由民主党が衆議院に「政治資金規正法の一部を改正する法律案(以下、自民案といいます。)」を提出しました。

また、5月20日には、立憲民主党及び国民民主党などが、政治資金規正法の改正案を共同提出し、他にも、日本維新の会も2024年5月22日に政治資金規正法に関する改正案を提出しました。

2024年5月22日から、本格的に国会で政治資金規正法の改正論について議論が始まるようです。

現在、政治資金規正法の改正論議にあたっては、様々な論点がありますが、そのなかの一つとして、「政治団体の代表者(政治家本人が多い)の責任の在り方について」といった論点が存在すると思います。

現行の政治資金規正法の建付けでは、政治資金収支報告書を提出する義務を負うのは、会計責任者です(政治資金規正法12条1項)。そのため、政治資金収支報告書に記載すべきことを記載しかなかったり、虚偽の記入をした場合には、その政治団体の会計責任者が刑事罰の対象になります(政治資金規正法25条1項2号、3号)。
現行の法律を前提にすれば、政治団体の代表者に刑事罰を科すには会計責任者と不記載や虚偽記入に関して、「共謀」がなければなりません。その犯罪を行うにあたって、お互いに意思の連絡(意思疎通)をしていなければいけないというわけです。したがって、共謀がないということになれば、収支報告書に不記載があっても、政治団体の代表者に犯罪は成立しません。

ところが、実務では、共謀を証明するのはハードルが高いとされます。そのため、政治資金収支報告書に不記載や虚偽記入があっても、会計責任者だけが訴追される、といった事態がままあるわけです。

そこで、今回の政治資金規正法改正論議では、政治団体の代表者たる政治家本人の責任を問う必要があるのではないか、このような問題意識があったと考えられます。

この論点について、各党はどのような改正を提案しているのかをみていきたいと思います。

2024年5月17日に提出された自民案をみると、以下のような規定ぶりになっています。

上記で述べたように、会計責任者は、政治資金収支報告書を提出する義務がありますが(政治資金規正法12条1項)、政治団体の代表者は、日ごろから、収支報告書提出に関する会計責任者の職務に関して、監督しなければなりません(自民案19条の12の2)。

また、政治団体の代表者は、政治団体の会計帳簿等が保存されているか等についても適宜確認する必要があります(自民案19条の12の3各号)。

そして、会計責任者は政治資金収支報告書を提出する際には、政治団体の代表者に、「政治資金規正法という法律にしたがってきちんと作成していますよ」ということを説明しなければならず(自民案19条の14の2第1項)、その説明等を聞いた代表者は、会計責任者がこの法律に従って、政治資金収支報告書を「作成していることを確認し」「その旨を記載した確認書を会計責任者に交付しなければならない」としています(自民案19条の14の2第2項)。
そしてそれを収支報告書に添付します(自民案19条の14の2第4項)。

つまり、自民案では、代表者が政治資金収支報告書をきちんと確認しなければならない、と規定されたといえます。

そのうえで、自民案は続けます。政治団体の代表者が「確認書を交付」しなかったり、はたまた「確認をしないで…確認書を交付した」場合については、50万円以下の罰金に処するとしています(自民案25条3項)。

現行の政治資金規正法下では、このような規定がないので、政治団体の代表者が刑罰に科される場合を新たに認めたことになります。

ただ、この条文を読む限り、25条3項によって、罰金の対象になる行為は、確認書を交付しないことや、内容を確認せずに確認書を交付した場合です。内容を確認して確認書を交付した場合、たとえ、その確認にミスがあっても、刑事罰は科されませんし、代表者が政治資金収支報告書を見たときに、「変だな」「あやしいな」と思ったという場合でも、確認して確認書を交付している限り、刑事罰は科されないのです。

ですから、裏金を受け取っていたにもかかわらず、会計責任者がそれを隠して、代表者に虚偽説明をした場合には、会計責任者は罪に問われますが(自民案第19条の14の2第1項、第25条4項第1号)、代表者が、会計責任者からの説明を信じて確認書を交付した以上、代表者本人は罪には問われません。
代表者がたとえ「変だな」、「あやしいな」と思ったという場合でも、政治資金収支報告書を確認して確認書を交付している以上、不記載又は虚偽記入の故意がなければ、政治団体の代表者には刑事罰が科されないと考えられます。

記入すべき収入があって、かつ、政治団体の代表者に(政治資金収支報告書の不記載や虚偽記入に関して)共謀がない場合に、果たして責任が問えるのか。このような質問がなされたとしたら、それに対する回答としては、自民案では責任を問うことは難しいというのが答えになると思います。

それに対して、2024年5月20日に立憲民主党、国民民主党、有志の会が共同で提出した「政治資金規正法等の一部を改正する法律案」(以下、立国案といいます)もあります。

さきほども指摘しましたが、現行の法律は、政治資金収支報告書を提出する義務を負っているのは会計責任者です。しかし、立国案は、12条1項の改正を提唱しています。

それによれば、政治資金収支報告書を提出するのは、会計責任者だけでなく、代表者も政治資金収支報告書の提出義務を課すという案のようです(立国案12条1項)。

そして、その代表者が政治資金収支報告書に書くべきことを記載しなかったり、虚偽記入をした場合には、現行の法律どおり刑事罰が科されることになります(現行政治資金規正法25条1項2号、3号)。
そして、その刑事罰、例えば罰金刑などが確定した日から、5年間は、公民権が停止されます。
また、政治団体の代表者が、故意ではなく、ものすごくうっかりして不記載や虚偽記入をしてしまった場合(重過失の場合)にも、刑事罰が科されます(現行政治資金規正法27条2項)。(ほかにも改正はありますが、ここでは触れません)

このように、立国案では、政治資金収支報告書を提出する義務があるのは会計責任者だけとしている現行ルールを少しいじって、その対象を政治団体の代表者にまで広げるという建付けのようです。

報道では、いわゆる「連座制」を採用したと報じられていますが、若干、不正確のように思われます。連座制とは、選挙の場合などで、選挙運動員に不正があったときに、候補者本人にも制裁を課す場合をいいますが、立国案は、報告書の提出義務が代表者と会計責任者双方になるという規定ですから、連座制ではないように思います。

確かに、この規定であれば、政治団体の代表者本人に政治資金収支報告書の作成・提出義務があるわけですから、「裏金があったことは知らなかった」「秘書から報告を受けなかった。だから知らなかった」という弁解はできなくなるのではないでしょうか。

ただ、現在の政治資金規正法の建付けは、政治団体の会計責任者が会計帳簿を備え付けたり、収支報告書を提出するなど、会計責任者が第一義的に義務を負うというものですから、立国案はこれまでの建付けに大きく変更を迫るものと言えます。そのあたりの説明はどうなるのか、気になるところです。
また、いじわるな言い方をすれば、会計帳簿の備え付けを行うのは、引き続き、会計責任者のみのようですから(現行政治資金規正法9条1項)、政治団体の代表者が「会計帳簿にそもそも収入が書かれていないのだから、それを前提にする政治資金収支報告書に不記載があっても、不記載の故意がありません」という弁解はありうるかもしれません。

日本維新の会は、2024年5月22日に、政治資金規正法に関する法律案を出していますが、その法律案の骨子などをみたところでは、政治団体の代表者の責任の強化等については言及がないように思われます。

ちなみに、余談ではありますが、政治団体の代表者の責任を強化するという意味では、現行の政治資金規正法25条2項を改正するということも考えられるところです。実際に、過去に国会で議論されています。

現行の政治資金規正法25条2項は、「2 前項〔注:25条1項〕の場合…において、政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、五十万円以下の罰金に処する。」と書かれており、現在の法律の建付けでは、代表者が、会計責任者の「選任」と「監督」双方について「相当の注意を怠った」ときに50万円以下の罰金になるとしているのです。

政治団体の代表が、会計責任者を「選任」する(雇う)ときに、違法行為を行わないか、その人柄や能力を適切に確認しつつ、しかも、日ごろの仕事ぶりについても、違法なことを行わないよう、きちんと監督しなければならないことを意味し、それを怠ったときに50万円以下の罰金を科すとされているわけです。

実際に、選任と監督双方において、配慮しなければいけなかったのに、しなかったという事態はそうそう想定されにくいと思われ、実務では25条2項はあまり活用されていないと考えられます。

そのため、この25条2項の条文案を選任「又は」監督にするといった改正は考えられるところです。そうであれば、たとえば、会計責任者に完全に任せて丸投げ状態下で、政治資金収支報告書に不記載がおきたり、虚偽記入がありました、という場合には、代表者に責任を問える場合が想定されることになります。
国会の議事録を検索すると、平成23年2月21日の衆議院予算委員会で議論されていることが確認できます。

加藤慶二

「よい弁護士とは、どのような弁護士ですか?」と質問されることが時にあります。「知識」が重要であることは言うまでもありませんが、法知識にだけ特化する弁護士ではいけないと思っています。クライアントの方と並走できる「話しやすい弁護士」でありたいです。