jimmy-chang-pG6lHrodmSs-unsplash
Picture of <span>加藤慶二</span>
加藤慶二

不動産投資とリスク

「不動産投資」

最近、このような言葉をよく見聞きします。不動産投資とは、自分が居住するためではなく、何等か不動産から利益をもらうために、マンション、アパートなどに投資することです。

不動産といえば、一般的には高額なものです。多くの人は、銀行から融資を受けて購入します。けれども、購入した物件を、自分では住まわずに他の人に貸し出すことで、賃料をもらうことができるようになれば、その賃料で銀行の債務(ローン)も返していくことができますし、若干の余りが出れば、それを生活の足しにすることもできます。ローンが終わったあとに、賃料収入があれば、(物件の経費はかかるものの)賃料収入だけで生活をしていくことができるかもしれません。
しかも、購入した不動産が値上がりしていれば、その不動産を売却するなどして、売却益を得るということも考えられるところです。

これが不動産投資の大まかな建付けです。不動産投資がどれだけ儲かるのか、損をしないにはどうすればよいのか、そういった話は別の方にお任せするとして、このコラムでは、不動産投資にはどのようなリーガルリスクがあるのか、どのような法的トラブルが発生する可能性があるのかを考えてみたいと思います。

都心の一等地に古いアパートがあったとします。アパートは相当古く、ほとんどが空き家です。一部屋だけ住んでいる人がいるようです。Aさんは、「このアパートと土地をそのまま所有者さんから、そっくりそのまま購入して、そのあと、自分でアパートを建てて、新築のアパートにしてから、テナントをいれよう。そして、賃料収入で生活しよう」と考えたとします。これは、立派な不動産投資です。

上記の事例を考えた場合、まず、Aさんは、アパートと土地の所有者(持主)と交渉して、売買契約を結ぶことになります。

まず、この場面では、法律的に留意すべき点が潜んでいます。

アパートと土地の名義を調べたとしても、持主が生きているのかわからない場合があります。名義には「Bさん」と書いてあっても、Bさんが生きているか死んでいるかは名義を眺めているだけではわかりません。もしも、Bさんが死亡しており、かつ、相続処理が未了の場合には、Bさんの相続人全員と交渉しなければなりません。まずこの時点で、真の所有者を見極める必要が出てきます。

また、アパートの空室の部屋の中に、大量の残置物(ゴミ)が残されていた場合、所有者との売買契約では、残置物の処理費用をどちらが負担するかも留意しなければなりません。売買契約書の内容をどうするのか、ひな型の契約書を持ってくるだけでは損をしてしまう可能性があります。

このように売買契約一つとっても、法律的に留意しなければいけない事柄がたくさん潜んでいます。

上記のケースで、Aさんは、無事にアパートと土地を購入しました。一部屋だけ住んでいる人がいたので、「出て行っていただけませんか。立退料をお支払いするので」と声をかけたとします。ところが、その人は「私はこのアパートから徒歩3分のところにある病院に通っています。その病院に通うためには、このアパートから出るわけには行きません。立退料をお支払いいただいても、アパートからは出ません」と言われてしまいました。
アパートの1室を借りている人(借主)は借地借家法で守られています。契約期間が満了しても契約は更新されてしまうのが原則ですので、退去を求めるには、正当事由が必要です。

誤解をしている方も多いですが、立退料を渡せば、必ず出て行っていただけるということにはなりません。上記の例のように、病院に行くためにアパートに住んでいるというのは、合理的な理由によるものなので、アパートから退去いただくのは、それなりに大変といえるでしょう。
このようにアパートに人が住んでいる場合、その人が退去してくれるのかどうか、そして退去を求めるとしても、どのように求めていくのか、ここにもリーガルリスクが潜んでいます。

もっとも、中古不動産を買ってそこに投資するというのは若干上級者向けですので、以下、新築マンションを購入するという場面でリスクを考えてみましょう。

それまで、不動産投資など考えたこともないCさんが、ある時、「不動産投資をしてみませんか。不動産を安くしますよ。いい物件なので、借り手もすぐに見つかるに違いありません」と勧誘を受けました。担当者の説明によれば、毎月入ってくる賃料がそれなりに高かったので、その不動産を購入すれば、生活が楽になると思われました。そのため、即決で不動産を購入しました。
Cさんは購入してから、すぐに借り手を探すべく、借り手を募集しましたが、なかなか借り手があらわれません。

Cさんとしては、賃料収入が入ると勧誘されたため不動産を購入したわけですが、借り手があらわれないのであれば、そもそも物件自体買わなかった、こう思うことでしょう。
そもそも、Cさんに不動産投資を勧めた会社は、Cさんが必ず利益を得られるように、結果を保証するものではありません。投資ですから、損をしたとしたら、Cさんの責任です。
しかし、投資だからといって常に自己責任というのもCさんに可哀想です。やはり、会社担当者の説明があまりにもずさんだったり、嘘を並べ立てる勧誘トークがなされたのであれば、それは問題とされるべきです。このように、「不動産投資」でよくあるリーガルリスクは「借主がなかなか見つからないのであれば、買わなかった」「賃料収入で十分生活できると勧誘されたのに、物件の維持管理費用などが結構かかるので、賃料収入だけでは賄えず、赤字だ」「こんな話、聞いていない」「だまされた」というトラブルです。

投資は自己責任とはいわれますが、一方で、セールストークや勧誘の内容によっては、時として、それが違法と判断される場合があります。実際に、それで裁判になった事例もたくさんあり、裁判例もたくさんあります。
投資用不動産の購入場面には、リーガルリスクが潜んでいるのです。

 上記の例で、Cさんが投資用不動産を無事に購入でき、しかも、借り手が見つかった場合、借り手との間で賃貸借契約を結びます。
 Cさんは投資として不動産を購入しているので、賃貸業(大家業)をやるわけではありません。賃貸借契約を締結する際に何か留意すべきことがあるのでしょうか。

また、賃貸借契約を締結できても、その借り手がすぐに賃料を払わなくなったらどうでしょうか。Cさんとしては、賃料を受け取ることで、銀行のローンの返済に充てることを考えていますので、賃料不払が続いてはCさんにとって死活問題です。
 Cさんが賃料の支払を求めても「来月になったら支払います」と言い続けるだけで、一向に払ってくれません。その場合、賃料をどうやって払っていただくのか、払っていただけない場合に退去を求めることはできるのか。交渉をすべきなのか、はたまた訴訟を起こすのがよいのか。
ここでも法的なトラブルに発展する可能性があるといえるでしょう。

 Cさんは、賃料収入をあてにして物件を購入したものの、借主は賃料を支払いません。賃料収入をあてにして、毎月のローンの支払いに充てようと思っていましたが、賃料収入がない以上、ローンが支払えない状態になってしまいました。やむを得ず、物件を売却するしかありません。物件にもよりますが、物件の価値は、普通は時とともに目減りしていくので、売却しても銀行ローンを完済できない場合が出てきます。その場合には、銀行の負債を負っていくことになります。もしその支払いができない場合には、最終的には「自己破産」をしなければならないのでしょうか。でも、自己破産だけは避けたい。そのような場合には「個人再生」という手続があります。いずれにせよ、債務を整理する必要が出てきますので、ここでも法的なトラブルに発展する可能性があります。

 もちろん、不動産投資によって、利益をあげている人はたくさんいます。それをきちんと利用して、成功に繋げている人もいますので、不動産投資は魅力があるともいえます。
ただ、一方で、法的なトラブルに発展する可能性も少なくないので、不動産投資にチャレンジする場合には、リーガルリスクを見極めたうえで、取り組んでいく必要があるでしょう。

加藤慶二

「よい弁護士とは、どのような弁護士ですか?」と質問されることが時にあります。「知識」が重要であることは言うまでもありませんが、法知識にだけ特化する弁護士ではいけないと思っています。クライアントの方と並走できる「話しやすい弁護士」でありたいです。