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加藤慶二

弁護士と消費者事件

1 はじめに

「消費者詐欺」「消費者問題」、こんな言葉を聞いたことがありますでしょうか。

オレオレ詐欺のように、お金を騙し取られてしまう被害のことを消費者被害と言ったりします。このような被害は、以前から指摘されていますが、いまでも依然として社会問題になっています。

よくテレビでも、騙された人の事例を紹介していることがあります。その時には「どうして引っかかってしまうのだろう」と思ってしまいますが、実際に、自分ごととして勧誘されると、人間は混乱したり、不安になったりするもので、どんなクレーバーな方でも騙されてしまうことはあるものです。それだけ、最近の詐欺の勧誘は高度化、専門化しています。

今回は、どのような詐欺事例があるのか、そして弁護士が消費者事件を担当する場合、どのような特徴があるかについて、解説します。

 

2 詐欺事案の具体例

いろいろな詐欺事案がありますが、例えば、下記のようなものがあります。

 

・家でくつろいでいると、突然インターホンが鳴った。誰だろうと思い、出てみると、「あなたの家は漏電の危険がある。このままだと火事になってお隣さんの家も燃やしてしまう危険性がある。自分は無料で検査している」などとまくし立てるように言われた。無料ならいいかと思い、深く考えずに家の検査をお願いしたところ、検査が終わるや否や、慌てふためいた様子で「ここまで老朽化している家は珍しい」「一日でも早く対処しないと大変なことになる」「いまなら特別キャンペーン中で、お金は無料です」などと言われた。不安になったこと、無料といわれたため、基礎的な工事をお願いした。基礎的な工事が終わったあと、突如「当初見つからなかった不備を発見した」などと言われ、同時に追加工事はお金がかかるとも説明され、結局、工事期間3~4日の間に、合計1000万円取られてしまった。

 

・将来的な子育てにかかる費用など、将来に向けて貯金をどのようにすればよいか悩んでいた。そのような時に、自分のスマートフォンに「儲かります。ご興味がある方はぜひ返信を!いまなら競艇での順位を予想します。無料です」というメールがきた。普段であれば、絶対に信じないのに、経済的な不安を抱えていたために、最初に500円を支払ったら、「損を取り返すなら、さらにお金を支払っていただく必要があります」と不安を煽られ、気付いたら、合計で500万円振り込んでいた。

 

・婚活アプリに登録したところ、いきなりメッセージを受信。その方と話が弾んで、近いうちに会わないかという話をしていた矢先に、仮想通貨購入を勧められ、言葉巧みに100万円振り込んでしまった。

 

いずれも、方法は違いますが、人の不安だったり、悩みだったり、好意だったり、そういった感情に言葉巧みに付け込んで、お金を騙し取るもので、許されないことです。

 

3 弁護士としてどのように関わるか

このような被害に遭われた場合、警察に行っていただくと同時に、地域の消費生活センターや、弁護士にご相談いただきたいと思います。

弁護士がご相談を伺う場合、どのようなことがあったのかという事実関係を聞き取ります。いつ、だれが、どこで、どんな勧誘をして、なぜお金を支払ってしまったのかなど、丁寧に事実関係をお聞きします。ほかに、お話を裏付ける証拠(資料)があるかについても、一緒にチェックしていきます。

他の事件にはない、消費者事件の特徴として、相手が分からないということがよくあります。例えば、離婚事件、相続事件などでは、相手が誰であるか、どこに住んでいるかについて問題になることは決して多くありませんが、消費者被害の場合、加害者は偽名を使っていたり、身元を隠して近づいてくることが多いので、相手がどこにいるのか、どんな名前なのかを調べることが必要になる場合があるのです。

その場合、住民票を取り寄せたり、弁護士法23条の2に基づく調査を行うなどして、丹念に調査を行います。過去、私が担当した事件では、氏名不詳で訴訟提起してから、裁判官とも協力して、身元を特定したこともあります。この点は、消費者被害、消費者事件の特徴ともいえる点です。

 

4 お金の回収方法

相手が特定できても、相手に返金を求めても、返金に応じてくれない場合があります。そもそも相手が特定できても、連絡しても無視される場合もあります。

その場合には、裁判所に訴訟を提起することになります。

消費者被害の分野はたくさんの関係法令(消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法、金融商品取引法など)があり、頻繁な法改正にも目を配る必要があります。相手が訴訟に受けて立つ場合には、裁判のなかで、返金を求めていくことになります。

ただ、消費者事件のまた一つの特徴として、相手方が法廷に現れないことも多く、その場合には、勝訴できても、相手からお金をどうやって回収するかが問題になることがあります。

日本の法廷ドラマでは勝訴判決を言い渡してもらえれば、エンドロールが流れて無事に物語が終わりますが、現実には、そんな簡単な話ではなく、勝訴判決をもらっても、お金が自動的に振り込まれてくるわけではないのです。

そのため、いかにお金を回収することができるか、依頼者の方とご相談して、さらに調査を進めるなどして、回収に向けて努力することになります。この点も消費者事件の特徴ともいえる点です。

 

5 日頃から準備を

消費者被害に遭われる方は様々ですが、やはりご高齢の方は狙われやすいと言えるでしょう。そのため、決して他人事の問題として捉えるのではなく、日頃からこの問題について周囲の方とご相談していただくことをお勧めします。

加藤慶二

「よい弁護士とは、どのような弁護士ですか?」と質問されることが時にあります。「知識」が重要であることは言うまでもありませんが、法知識にだけ特化する弁護士ではいけないと思っています。クライアントの方と並走できる「話しやすい弁護士」でありたいです。