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加藤慶二

運動員買収と政治献金の違いについて

選挙にチャレンジしようとするときに、お金を渡して、自分の選挙を手伝ってもらうことを「運動員買収」といいます。

公職選挙法上、「運動員買収」は禁止されており、許されません。「運動員買収」は犯罪ですので、有罪になれば刑罰が科され、しばらく選挙に立候補することもできません(公民権の停止)。

一方、現職、非現職いずれであっても、政治家は自分の政治団体を持っていることが通常です。例えば、千代田区選出の国会議員であれば、「××議員後援会(名称は様々です)」という政治団体と、「□□政党東京都第1総支部」など複数の政治団体を持っていることが多いでしょう。地方議員は、政党の支部を持たせてもらえませんが、それでも、「〇〇議員後援会」といった個人の政治団体を持っているはずです。

企業からの献金を受け取らないことを宣言している政治家も多くいますが、政治資金規正法のルール上、(上限額や会社から受け取れないなど様々な規制はあれど)各政治家の政治団体が、寄付(献金、カンパ)を受け取ること自体は可能です。
事務所を借りたり、人を雇ったり、チラシを作成したりなど、政治活動をするにはお金がかかるので、政治献金を受け取ること自体は、批判されることではないと思います。

さて、話を冒頭に戻しますが、区長(市長)選挙に立候補しようとするAさんが、管内の地方議員にお金を渡して、自らの選挙の集票を頼もうとする場合、これは「運動員買収」として許されないでしょう。しかし、区長(市長)選挙に立候補しようとするAさんが、管内の地方議員の政治団体に「あなたの政治活動に期待しています。これからも頑張ってください」といってお金を渡した場合、それは「政治献金」なのか、それとも「運動員買収」に当たるのか、どちらでしょうか。

政治献金をすること自体は自由ですが、お金に色はついていませんから、区長(市長)選挙が近づいているAさんからお金を渡されれば、そこには様々な意味を持ってきます。

政治献金なのか、買収(集票を頼まれているのか等)なのかの判断はグレーです。

実際に、運動員買収を行ったとして裁判に起訴されても、起訴された当人が「渡したお金は政治献金という趣旨であり、買収ではない。自分は無罪だ」という弁解を述べることもあります。

政治献金なのか、買収なのかを見極める答えとしては、ケースバイケースによるとしか答えられません。渡した時の状況、金額、人間関係、お金の流れなどの諸事情からみて、買収という意図で渡したかどうかが判断されます。

この点について、東京地方裁判所が令和3年6月18日に言い渡した判決が参考になるでしょう。この事案は、起訴された当人(被告人)は、第〇〇回参議院議員選挙に××県から立候補するA候補者の陣営にいましたが、管内の市議会議員にお金を渡したことが買収であるかが問われました。

判決の一部をみると、裁判所は、

Ⓐ選挙前の情勢としては、A候補者陣営は、必ずしも当選できるかどうかはわからず劣勢であった、
Ⓑ××県市議にお金を渡したのは参議院選挙の公示日の3か月前から投票が終わってから10日後の間であった、
Ⓒお金を渡したのは××県の地方議員98名であり、総額2700万円を渡している、
Ⓓお金を渡した相手はいずれも各選挙区においてそれなりの支持基盤がある面々で、彼らの協力があれば多くの集票が期待できると見込めると思われたこと、
Ⓔ金額も投票や集票とりまとめの報酬として十分に見合う金額であること、
Ⓕお金を渡す理由が他には存在しないこと、

などの状況からして、被告人が渡した現金は投票や投票の取りまとめの報酬として渡していたと認められるとして、買収であると判断しています。

結局のところ、政治献金なのか、買収なのかは、その時の状況下でなければ判断ができません。
なお、政治資金規正法上、献金を受けた場合、それを収支報告書に載せる必要があります。しかし、政治資金規正法と公職選挙法は法律そのものが違うので、政治資金規正法上のルールに則っていることによって買収にあたらないという関係にはなりません。

〔他にもブログを書いています〕
https://kato-keiji.com/blog/category/legislator-support/legislator-support-8/

加藤慶二

「よい弁護士とは、どのような弁護士ですか?」と質問されることが時にあります。「知識」が重要であることは言うまでもありませんが、法知識にだけ特化する弁護士ではいけないと思っています。クライアントの方と並走できる「話しやすい弁護士」でありたいです。