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加藤慶二

政策ビラをマンション等に配布するときに「ビラ配布お断り」と書いてあった場合にはどうすればよい?

現職の議員や将来的に立候補を考えている方は、少しでも有権者に自分の政治信条や考えを知ってもらいたいと思います。自身の考えを知ってもらうために、SNSを始めたり、街頭演説を行うなどが考えられますが、やはり、チラシやビラを作成することが思い浮かびます。特に選挙が近くなれば、より、そう思うはずです。

人口が密集している地域ではマンションが建っていることが多いですが、昨今、マンションの入り口に「当マンションはビラの配布お断り」といった看板が出されていることが増えてきました。また、1階にある集合郵便受けに、わざわざ「チラシを入れないでください」とシールが貼ってある場合も散見されます。

議員としては、「投函・配布したい」と思う一方で、「看板がある以上、やめたほうがよいのではないか」という気持ちにもなって、迷うはずです。

このような場合、チラシを投函することは許されるのでしょうか。

結論からいえば、これまでの裁判例などを前提にすれば、1階にある集合郵便受けにチラシを配布することは許されると思いますが、各戸室にある新聞入れ(ドアポスト)にチラシを投函することは許されないと考えられます。

実際に、東京都の三鷹市で起きた事件をご紹介します。

三鷹市に3階建てのマンションがありました。現職の市議会議員のボランティアの方が三鷹市においてチラシのポスティングをしていました。問題となったマンションのエントランスには「関係者以外立入禁止」との札が貼られていました。

しかも、1階にある集合郵便受けの(裁判を起こした原告のポストには)「チラシお断り!」「チラシを入れた企業の製品等は絶対に購入しません!チラシを入れた正当・候補者には絶対に投票しません!」「チラシ投入、即、不法侵入で刑事告発!&精神的被害に対する賠償請求!」「チラシ投入業者との裁判結果 謝罪及び解決金10,000円受領で和解」とのステッカーが貼ってありました。

今回の三鷹市のボランティアさんは、このマンションの(裁判を起こした原告の)集合郵便受けにチラシを配布したのでした(ここで重要なのは、1階にある集合郵便受けにいれたのであって、各住戸のドアポスト・新聞受けに入れたということではないということです。)。

チラシをポスティングされた住人の方は現職市議会議員に対して訴訟提起をしました。チラシ投入をするなとあれだけ書いてあったのだから、精神的損害を受けたから賠償金を払え、と考えたのだと思われます。

それに対して、東京地方裁判所は以下のように判断しました(東京地方裁判所令和2年2月27日判決)(わかりやすくするために、表現を一部変えています)。

・チラシを原告(住人)の郵便受に投函した行為は、確かに,マンションの管理組合の意向及び原告(住人)の意思に反する行為である。しかし,直ちに違法であるということはできない。

・投函した行為が違法になるか否かについては、その行為の態様が、社会通念上一般に許容される受忍限度を超える侵害をもたらすものであるか否かによって判断すべきである。

マンションにポスティングすることは、議員などにとっては、自分の政治信条をアピールするための重要な行為です。そのため、東京地方裁判所は、チラシ投函が違法になるかどうかは、みんなが「それはさすがに我慢してもいいんじゃない?」とか「そこまで迷惑になっていないでしょう?」といえるような場合には許されるとし、一方で、「そこまで投函されたら、さすがにちょっとやりすぎだよね」といえるような場合には違法であると判断したのです。

東京地方裁判所は以下のように続けます。

①マンションの敷地と道路との間に塀がない。

②マンションに入る際に扉はあるが,施錠されていない。扉はガラスであって中をのぞくことができる。

③投函されたポストは集合郵便受である。各戸ごとにあるドアポストにいれたのではなく,1階にある集合郵便受である。集合郵便受けがある棟は、実際に住人が生活している棟とは別であり,チラシを投函したからといって住人の生活を脅かすとはいえない。

④配布したチラシはたかだか紙1枚。すぐ捨てることもできる。

⑤チラシを投函するにおいて、何かを壊すなどの物理的な強制力を使っていない。

東京地方裁判所は、①~⑤の理由からすれば、今回のチラシの投函行為は、「社会的に受忍し得る限度を超えるものではない」として(つまり、我慢できる範囲であるとして)、現職の市議会議員のポスティング行為は違法ではないとしたのです。

この事件はその後、最高裁まで争われましたが、結局、現職の市議会議員の言い分が認められています。

同じような事件は他にも報告されていますが、やはりポイントは、1階にある集合郵便受けへビラを投函する場合は違法になる可能性は少ないということでしょう。立ち入り禁止、ビラ配布禁止という看板があるにもかかわらず、マンションの住居棟の敷地内に入って、各住戸のドアポスト(新聞受け)に投函することまではさすがに許されていないように考えられます。

ただし、集合郵便受けだからといって必ず許されるとまでいえるかは不明で、例えば、過去に何度も事務所に宛ててクレームが寄せられているような場合には、その住人へのポスティングはしつこく投函しているということで、集合郵便受けへのビラ投函が違法になるかもしれません。いずれにせよ、住民との間でトラブルになることは、時間を浪費してしまうことになって得策ではないので、もめる可能性がある場合は、その住人の集合郵便受けへのビラ投函は控えたほうが賢明だと思います。投函中に、注意されたら、すぐに謝って、撤退するのがよいでしょう。

※個人のホームページにも同様の記事を載せています。

加藤慶二

「よい弁護士とは、どのような弁護士ですか?」と質問されることが時にあります。「知識」が重要であることは言うまでもありませんが、法知識にだけ特化する弁護士ではいけないと思っています。クライアントの方と並走できる「話しやすい弁護士」でありたいです。