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髙野傑

違法な取調べの実態を公開法廷で明らかにするために

先日、「取り調べ映像、異例の提出 地裁勧告、被告の民事裁判で」という報道があったのをご存知でしょうか。私はこの民事訴訟の原告代理人の一人です。この事件について、これまでの手続きと今起きている問題について、取調べの録音録画映像に関することを中心にお話ししようと思います。

 

検察官による違法な取り調べの実態

私達の依頼人は、刑事事件の被疑者として捜査機関から取調べを受けた方です(刑事訴訟はまだ継続しています)。依頼人は取調べにおいて、一貫して黙秘をしました。捜査機関(今回は検察官でした)は、黙秘をしている被疑者に対し、供述をさせ供述調書という書類に署名をさせるため、様々なことをしてきます。この事件の検察官は、依頼人を「お子ちゃま」「ガキ」「僕ちゃん」などと侮辱し、怒鳴りつけました。一度や二度ではなく、合計50時間以上行われた取調べの中で、このようなことを繰り返しました。依頼人を身体的にも精神的にも疲弊させ、屈服させようとしてきたのです。

検察官だからといって何をしても許されるわけではありません。このような取調べは違法です。そこで依頼人と私達は、検察官による違法な取り調べがあったことを理由に、国に対し損害賠償を求める国家賠償請求訴訟(国賠訴訟)を起こしました。

 

取調べの録音録画制度について

私達は訴訟手続きの中で、違法な取り調べがあったことを、具体的には上に挙げたような発言を検察官が行った事実を、証拠をもって立証しなければなりません。密室で行われる取調べの内容を、どのようにして証明すればよいのでしょう。

2019年の刑事訴訟法改正により、一部の事件では取調べがビデオで撮影されるようになっています。ビデオ映像は機械的に映像や音声が記録されるので、証拠としての価値は非常に高いものと言えます。そして、刑事訴訟の手続きにおいては、取調べの録音録画記録映像(が保存された記録媒体)を入手することは容易です。刑事訴訟法に定められた類型証拠開示請求をするだけです。特に揉めることもありません。国賠訴訟の代理人である私達は、同時に刑事訴訟の弁護人でもあるので、取調べの映像は国賠訴訟を起こした時点で私達の手元にあったのです。

 

目的外使用の禁止と文書提出命令

それならその映像記録を国賠訴訟で提出すればよいのだから、検察官による違法な取り調べを立証することは簡単ではないか。そう思うかもしれません。しかし今の法律では、それが出来ないのです。刑事訴訟法には、目的外使用を禁止する条文があります。簡単に言えば、刑事訴訟の手続の中で入手した証拠は、刑事訴訟以外では使用することが許されていないのです。これの条文に違反すると刑罰を科されます。

私達の手元にはすでに違法な取調べを録画した映像があるにも関わらず、そのままでは使えません。なんとも迂遠ですが、国賠訴訟でその映像を使えるようにするためには、民事訴訟法で定められた手続きによって、同じ映像を国に提出させなければならないのです。

それが文書提出命令申立という手続です。私達が申し立てを行った2022年7月の時点では、取調べの録音録画映像記録媒体について文書提出命令を出した例は見つかりませんでした。しかし最近、札幌地裁において取り調べを録音録画した記録を裁判所に提出するよう札幌地検に対して命じる決定が出たようです。私達の事件では、申し立てを受けた裁判所が国に対し自発的に提出するよう促し、その結果、国が録音録画映像を提出しました。そのため、文書提出命令までは出ていません。

なお、文書提出命令を申し立てた2022年7月から、国が提出をするまでには、半年以上期間が経過しています。そもそも取調べの録音録画制度は、違法な取り調べが行われていないかを検証する目的で作られました。そして、国賠訴訟は取調べが違法でなかったかを検証する手段の一つです。それにも関わらず、刑事訴訟手続の中で入手した録音録画記録映像をそのまま利用することが出来ず、それを利用できるようにするまでに半年もの時間を欠けなければならない、というのは不可思議ではないでしょうか。この点に関しては、立法によって解決されなければなりません。

 

違法な取り調べが行われている映像は公開の法廷で再生されなければならない

ようやく映像が提出されたので、次はどのように取り調べるかの問題になります。実務上、民事訴訟では裁判官が証拠を見て検討するのは執務室です。法廷では見ません。しかし、日本の裁判は民事訴訟を含めて公開が原則です。私達はこの原則に従って、検察官が違法な取り調べをしている映像を公開の法廷で再生するように求めています。

おそらく国は、色々理由をつけて、公開の法廷で再生することに反対してくるはずです。検察官が違法な取り調べを行っているという実態を、国民に知られたくないからです。だからこそ、私達はその抵抗を乗り越え、なんとしても公開の法廷で映像を再生させなければならないと考えています。

 

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「違法な取り調べの実態を法廷で明らかにするために2‐その顛末‐」

「違法な取り調べの実態を法廷で明らかにするために3‐法廷での再生と動画の公開」

髙野傑

裁判官も検察官もすべて人間です。人間は誤りを犯します。正しい判決を導くには当事者双方がそれぞれの立場から議論を尽くすしかありません。そのために刑事弁護人はいます。 依頼者である皆様に完全に寄り添って活動する。それが私が心に決めている弁護士の姿です。