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髙野傑

控訴審における一つの困りごと

東京で弁護士をやっていると、控訴事件の相談を受けることも少なくありません。刑事裁判の控訴審は、制度上のいろいろな障害がありますが、実は第一審の弁護人、つまり弁護士が生み出すことになる障害もあります。それは証拠開示です。

●検察官が必要と考える証拠しか見せてもらえない
捜査機関は、被疑者を起訴するまでの間に様々な捜査をします。いろいろな人に話を聞き、いろいろな調査をして、その結果を書類にまとめます。こうして出来上がった書類を裁判で利用します。検察官が裁判で使おうとする証拠のことを「検察官請求証拠」と呼びます。この証拠は、必ず被告人側に見せなければならないことになっています。被告人や弁護士は何が書かれているのか、中身を確認することが出来ます。しかし、検察官請求証拠は、捜査機関が集めた証拠の全てではありません。検察官が裁判で使うことにした、ごく一部分に過ぎないのです。
検察官が裁判で使うということは、被告人を有罪するために有効な証拠ということです。そこに被告人にとって有利な事実が記載されているはずがないのです。しかし、基本的には検察官請求証拠しか、被告人や弁護士は見せてもらうことが出来ないのです。

●公判前整理手続における類型証拠開示請求権
一方で、裁判が公判前整理手続に付されている場合には、被告人側には一定の証拠の開示を求める権利が認められています。証拠開示の方法のうちの一つが「類型証拠開示請求」です。法律が定めた一定の類型に当てはまる証拠については、網羅的に開示を求めることができるようになっています。開示を求めれば、検察官が裁判で使おうとする証拠以外の多くの証拠の中身を見ることができるようになるのです。
しかし、権利は行使されなければ意味がありません。類型証拠開示請求をする権利を持っていても、行使しなければ証拠は開示されません。残念ながら、公判前整理手続に付されているにも関わらず、類型証拠開示請求をしない弁護士は少なくありません。類型証拠開示請求をしなくとも、検察官も裁判官も注意喚起などしません。多くの被告人はそのような証拠開示制度があることを知りません。弁護士が権利を行使しなかったとしても、何事もなく手続きは進んでしまうのです。

●検察官の任意の証拠開示で満足してしまう
なぜ類型証拠開示請求をしないのかを聞いてみると、多くの弁護士は「検察官の任意開示で十分だと思った。」と答えます。公判前整理手続に付されている多くの事件では、検察官は検察官請求証拠以外の証拠を任意に被告人側に開示することをしています。これで十分だと思ったというのです。
しかし任意とあるとおり、どの証拠を開示するか、どれだけの証拠を開示するか、は検察官が自由に決めることになります。検察官が被告人に有利な証拠を隠す可能性があることは、数々の冤罪事件において明らかになっています。また、検察官が任意に開示をするのは、あくまでその時点で検察官の手元にある証拠だけです。警察にある証拠については、検察官の任意開示の対象から外れてしまうのです。もしかしたらまだ警察にある証拠こそが、被告人にとって有利なものかもしれません。類型証拠開示請求であれば警察にある証拠も開示を求めることができますが、任意開示はそうではないのです。

●その結末‐控訴審では「お願い」しかできない
控訴事件を受任した後、第一審の弁護人に連絡をして、記録の引き継ぎを受けます。送ってもらった証拠を見ると、任意開示のタグはあるが類型証拠開示のタグがないことに気づきます。嫌な予感。一通り記録を確認した後、電話で尋ねてみます。「類型証拠がないようなのですが…」「類型証拠開示請求はしていません!」このやり取りを経験したのは一度や二度ではありません。
残念ながら、控訴審の手続に公判前整理手続における類型証拠開示請求のような制度はありません。基本的には検察官に対し「〇〇や〇〇の証拠があるはずなので、開示して下さい。」とお願いをすることしか出来ないのです。このお願いを聞いてくれる検察官もいます。しかし「第一審では公判前整理手続に付されていたじゃないですか。その時類型証拠開示請求をしなかったのは被告人側の問題でしょう。開示しませんよ。」と拒絶されれば、合理的な反論はできません。もちろん、それでも諦めることなく、裁判所を巻き込み検察官に開示を促すようお願いをしてみたり、いろいろな手段を尽くしていくことになります。しかし確実に言えることは、公判前整理手続中に類型証拠開示請求をしていれば、そのような苦労はせずに開示を受けることが出来たのです。

●弁護士に聞いてみる
徹底した証拠開示を受けることは、適切な刑事裁判を受ける上で、最も重要な弁護活動の一つです。類型証拠開示請求は、その中核です。しかし残念ながら、全ての弁護士がこの請求権の重要性を理解しているわけではないのが現実です。
あなたの弁護士は類型証拠開示請求のことをそもそも知っていますか?あなたの家族の弁護士は、任意開示に満足して類型証拠開示請求をしなくていいと考えていませんか?もしそうであれば、悲劇的な結末が待っているかもしれません。
躊躇してはいけません。「先生、もちろん類型証拠開示請求ってしてくれたんですよね?」とすぐに聞いてみて下さい。

髙野傑

裁判官も検察官もすべて人間です。人間は誤りを犯します。正しい判決を導くには当事者双方がそれぞれの立場から議論を尽くすしかありません。そのために刑事弁護人はいます。 依頼者である皆様に完全に寄り添って活動する。それが私が心に決めている弁護士の姿です。

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