tingey-injury-law-firm-6sl88x150Xs-unsplash
Picture of <span>髙野傑</span>
髙野傑

不同意わいせつ罪・不同意性交等罪とその問題点

令和5年7月13日、強制わいせつ罪・強制性交等罪や準強制わいせつ罪・準強制性交等罪を「不同意わいせつ罪・不同意強制性交罪」とする改正が施行されました。

 

  • 改正の内容

不同意わいせつ罪や不同意性交等罪は、いくつかの類型に分かれています。今回は特に大きい改正である「同意」に関するものを取り上げます。

不同意性交等罪などは、次の①〜⑧のいずれかを原因として、同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じて、性的行為に及ぶと成立します。

 

①暴行若しくは脅迫を用いることまたはそれらを受けたこと

②心身の障害を生じさせることまたはそれがあること

③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること

④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること

⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと

⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること

⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること

⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること

 

これらの類型は、被害者が「同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態」にあったかの判断を行いやすくするために列挙されたものとされています。

また、法務省は改正前の強制性交等罪などの処罰範囲を拡大して改正前には処罰できなかった行為を新たに処罰対象に含めるものではないが、改正前の強制性交等罪などと比較してより明確で判断にばらつきが生じない規定となった結果、改正前にも本来は処罰されるべきであった行為がより的確に処罰されるようになるとしています。

 

  • 内容が不明確であること

不同意わいせつ罪や不同意性交等罪には問題があります。

まず内容が不明確であるという点です。刑罰法規は、その内容が具体的で明確なものでなければなりません。なぜなら、刑罰法規の内容が不明確だと、法律を守らなければならない市民が、どのような行為をすると罪に問われるのかが予測できなくなり、萎縮した生活を送ることを強いられるからです。また、内容が不明確であることを利用して、国家権力である捜査機関が恣意的な運用を行う危険も生じます。

しかし、上記類型の関する規定のなかには不明確なものがあります。例えば②や③ですが、心身の障害やアルコール等の影響がどの程度あれば同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあったと判断されるのかがわかりません。大多数の人において、アルコールを一滴摂取しただけで性的行為を判断する自由な意思や能力に影響があるとは思えません。これは極端な例ですが、条文上はこのような場合も含まれてしまっています。処罰される可能性をゼロにするためには一滴でもお酒を飲んだなら、その人とは性的行為に及んではならないということになります。たとえ夫婦や交際相手であっても、です。これは現在の慣習上、不自然なことと言わざるを得ません。この点は、いくつかの弁護士会も批判している点です。

 

  • 弁解の困難さ

改正前、被疑者が「相手が同意していると思っていた」という主張をすることは珍しくありませんでした。この弁解は改正後においてもなくならないはずです。しかし、その弁解で捜査機関を納得させるためには、先ほど挙げた①〜⑧を踏まえて、相手が同意しているか確認するためにとった手段すべてを挙げなければならないのです。例えば、飲酒の上で性的な行為に及んだ相手から後に被害届を出され逮捕されてしまったとします。その場合、被疑者は相手方は③アルコールの影響はなく、④睡眠その他の意識不明瞭な状態にもなかったこと、⑤不意打ち(同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在)で行為に及んだわけでもないこと、⑥フリーズ状態(予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕)のうえでの行為でもなかったこと、さらには⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮を感じるような状態でもなかったことなどを適切に弁解する必要があるのです。

しかし、真実相手が同意していると思っていた人が、突然捜査機関に逮捕され、このような弁解ができるはずがありません。

 

  • 身を守るために

今後、同意の有無がどのように立証されていくのかは裁判例の積み重ねを待つしかありません。しかしその間にも冤罪に巻き込まれる人が出てくるはずです。そうなったときには自分の身は自分で守らなければなりません。上記被疑者が身を守るために取るべき行動は、やはり黙秘ということになるでしょう。黙秘についてはこちらのコラムもご参照下さい。

「黙秘を助言できない弁護士」
「黙秘を実現できない弁護士」

今回の改正により性的行為に関する行動の変容が求められるとの意見もあります。しかしそれだけでなく、万が一冤罪に巻き込まれた時に身を守るためにどうしたら良いのかの知識のアップデートも必要なのではないでしょうか。

 

髙野傑

裁判官も検察官もすべて人間です。人間は誤りを犯します。正しい判決を導くには当事者双方がそれぞれの立場から議論を尽くすしかありません。そのために刑事弁護人はいます。 依頼者である皆様に完全に寄り添って活動する。それが私が心に決めている弁護士の姿です。