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遠山秀

プロが実践するドラフティング技術:読みやすく失敗しない「条文構成」と「3つの条文分類」|国際取引契約書のつくり方③

国際取引契約書のつくり方(全4回連載)

▶ 第1回:「良い国際取引契約書」の3つの基本要素
▶ 第2回:契約書で「想定外の損失」を防ぐ攻めと守りの技術

III. 「良い」契約書をつくる技術

1. 条文の並べ方

「良い」契約書を作成するための有用な技術的なポイントは3つある。第1に、最も重要なのは、条文の並べ方(順序)である。実質的には同一の内容の契約書であっても、条文の並べ方次第で、読みやすさ・使いやすさは大きく異なる。それだけでなく、条文の順番によって意味が変わってしまったり、内在的な不整合が生じてしまうことすらある。

それでは、どのような基準で条文を並べるべきであろうか。並べ方の基準となる原則も3つである。

(1)重要なことから記載する

1つめは、重要なことから記載するという原則である。稟議書であれ企画書であれ報告書であれ、ビジネスの現場で作成される文書では冒頭に結論(最も伝えたいこと)を記載することが多い。裁判所の判決書でも主文(結論)が冒頭に置かれる。契約書も同様に考えて、コマーシャルな観点から重要な条件を順番に並べていければ、結果として、自然と読む者・使う者にとってわかりやすく使いやすい契約書になることが多い。

また、この原則に従う場合、前提として、対象とする取引に関し、あるいは自社の利益にとって何が重要かを必然的に考え特定することになる。そのためには、当該取引を通じ、各当事者の強みは何で、どのような役割が適切か、各当事者はどのようにして利益を得るのか、役割やリスクの配分は各当事者のリターンや能力に整合しているかといった事柄を考える必要があり、また、想像力を働かせて、将来にわたり、取引に重大な影響を及ぼす可能性がある外部的なリスク要因にはどのようなものかに思いを馳せ、リスクに対応し、抑制しあるいは転嫁する方策を構想する必要もある。

このような思考プロセスそのものが、適切な契約条件を導く基礎となる。すなわち、重要なものから記載するという原則に従うことは、おのずから「良い」契約書を形成することにつながるのである。

(2)時系列ないし時間軸に沿って記載する

条文の並べ方に係る2つめの基準は、時系列ないし時間軸に沿って記載するという原則である。契約書の作成を必要とする取引であれば、時間軸の長短は別にして、開始から終了まで一連のプロセスを伴うはずである。当事者も、時間軸に沿って順次、自らの役割を果たし、相手方による履行を受け取ってゆくだろう。そのプロセスが契約書に時系列で順番に記載されていれば、当事者にとって理解しやすく使い勝手の良い契約書になりやすい。

(3)論理性ないし体系性を意識する

条文の並べ方に係る3つめの基準は、論理性ないし体系性である。より具体的には、論理的先後関係、すなわち前提となる内容の規定を先に、その帰結を示す規定を後に置くというルールである。その例として、まず総論を記述し、その後各論に進むという配置が挙げられる。

法令は、このルールに従って、冒頭に総則として全体に共通する事項を定める規定を配置し、それら総則的な規定を踏まえて、個別の領域ないし分野に対応する各則の規定を置くことが多い。例えば就業規則など、社内規則についても、このような発想で作成されることが少なくない。論理性や体系性も、読む者・使う者の理解を助けるはたらきをする原則である。

3つの原則を組み合わせる

条文の並べ方の基準となる上記の3つの原則は、相互に排他的なものではない点に注意が必要である。契約書の作成においては、むしろこれら3つの原則を組み合わせることが効果的な場合が多い。

例えば、論理的先後関係を意識して、冒頭には若干の総則的な規定(目的や定義など)を配置した上で、重要性の原則にのっとり、取引の具体的内容や中核的なコマーシャル条件を記述する条文を並べていく一方、例えば販売店契約における個別契約の成立及び履行といった特定の領域ないし局面に関する規定群に関しては、時系列に沿って条文を並べていくといった方法である。

2. 条文の性質に応じた作成

「良い」契約書を作成するために有用な技術的なポイントの2つ目は、契約の条項を大まかに3つに分けて整理し、各類型に適した方法でそれぞれを形成していくことである。便宜的ではあるが、実務上は、次の3つに分けて取り扱うことが効率的と言える。

  1. コマーシャルな観点から重要な条件を定める規定群
  2. 法的な観点から定型的に置かれる規定群
  3. 法的観点から要請され、かつ、ビジネス上も重要な意義をもつ規定群

(1)コマーシャルな観点から重要な条件を定める規定群

上記1は、コマーシャルな観点から重要な条件を定める規定、換言すれば利益やキャッシュ創出に直接に関わる事項を定める条項であり、並べ方の基準となる1つ目の原則の対象となるようなものである。

輸出入取引の例で言えば、個々の取引に係る個別契約の成立と履行に関する条項がこれに該当する。販売店契約であれば、販売テリトリーの設定、独占か非独占か、販売目標及び報告、セールスプロモーションにおける協力、競合商品の取扱いの制限などが加わる。

製造委託であれば、技術供与及びライセンス、型の提供、原材料の支給、商品の引取り、競合製品の製造の制限などであるし、合弁事業であれば、法人の設立及び運営に関する事項、資金調達や雇用に関する事項、合弁会社のビジネスに関する各合弁パートナーそれぞれの役割などが含まれよう。

条文の並べ方に関して述べたとおり、このカテゴリーに含まれるような条項は、文章表現はともかくとして、ビジネス・パーソンが主導して実質的な内容を構想すべきであろう。

(2)法的な観点から定型的に置かれる規定群

次に、上記2は、紛争やトラブルが生じた場合(換言すれば、リスクが顕在化した場合)には、法的にもビジネス上も重要な意味を持つことになる可能性があるが、取引が順調に行われている限りは、誰も読まないようなやや技術的な規定群である(いわゆるボイラー・プレート条項)。

その例としては、独立当事者(Privity)、不可抗力(Force Majeure)、存続(Survival)、通知(Notice)、譲渡禁止(No Assignment)、分離可能性(Severability)、完全合意(Entire Agreement)、変更手続(Amendment)などの条項が挙げられよう。

このカテゴリーの条項の作成は、基本的には、社内の法務担当者や外部の弁護士に任せて差し支えない。

(3)法的観点から要請され、ビジネス上も重要な意義をもつ規定群

上記3は、契約書が対象とする取引関係における重大な変更や変化及びその効果に関する規定群であって、例えば、損害賠償及びその制限、期間及び終了、機密保持、準拠法及び紛争解決方法などが含まれる。

このカテゴリーの条項は、ビジネスの具体的内容に即して調整する必要があるから、ビジネス・パーソンと法務担当者ないし弁護士とが連携して作成することが望ましい。

遠山秀

社会課題の解決に取り組み、新しい法領域に積極的にチャレンジして、実践の成果を依頼者の皆様と分かち合っていきたいと考えています。