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遠山秀

タームシート活用法と「AI・リーガル・テック」時代の契約書作成|国際取引契約書のつくり方④

国際取引契約書のつくり方(全4回連載)

▶ 第1回:「良い国際取引契約書」の3つの基本要素
▶ 第2回:契約書で「想定外の損失」を防ぐ攻めと守りの技術
▶ 第3回:プロが実践するドラフティング技術:読みやすく失敗しない「条文構成」と「3つの条文分類」

3. タームシートの活用

「良い」契約書を作成するための有用な技術的なポイントの3つ目は、タームシート(主要条件表)の活用である。ビジネス・パーソンが、上記1のコマーシャルな観点から重要な条件を定める規定群を構想する場合、箇条書きでも表形式でも構わないので、並べ方に関する前記の3つの原則を意識しつつ、これを書き出していけば、おのずからタームシートが出来上がるし、また、それで足りる。周知のとおり、実務上、タームシートに基づいて当事者間における契約条件の交渉が行われることも多い。詳細な条件(上記2の法的な観点から定型的に置かれる規定群や3の法的観点から要請され、かつ、ビジネス上も重要な意義をもつ規定群に相当するもの)については、タームシート上の1項目として、追って最終契約(definitive agreement)で定めるとしてもよいし、また、タームシート自体に法的拘束力がない(legally non-binding)旨を記載してもよい。逆に、当事者が署名ないし押印することにより、タームシートをもって基本的な事項に関する法的拘束力のある合意書とすることも可能である(表題としては、Memorandum of Understanding, Letter of Intent, Provisional Agreementなどとしても差し支えない。)。

4. ひな形、リーガル・テック、生成AI

最後に、契約書作成のツールに簡単に触れて本稿を締めくくりたい。いわゆる「ひな形」について、有料のリーガル・テック・サービスを利用すれば、日本語だけでなく英文の契約書についても、様々な取引類型に応じたひな形が入手可能である。それらのひな形は一般にクオリティが高く、十分に実用に耐えるものが多い。ただし、類型ごとに比較的単純かつ典型的な取引を想定したものであるから(「ひな形」である以上、すべからくそうなるのは当然である)、重要なコマーシャルな条件に相当する部分については、個々の取引の具体的内容や特性に応じた調整は必須である。

リーガル・テック・サービスには、契約書チェックのサービス、より具体的には、プラットフォームにアップロードされた契約書のデータ・ファイルを対象に、文章表現だけでなく実質的な内容についても、法的な観点から、自動的に問題点を指摘してコメントし、代替の文案を提示したりするサービスもあり、一部のサービス・プロバイダーは、英文の契約書について同様のサービスを提供している。契約書チェック・サービスは、前記した契約条項の3つのカテゴリーのうち、2法的な観点から定型的に置かれることが多い規定群、及び3法的観点から要請され、かつ、ビジネス上も重要な意義をもつ規定群に対して、特に有効かつ実用的なツールと評価できる。他方、1コマーシャルな観点から重要な条件を定める規定群に関しては、少なくとも現時点においては、定型的ないし一般的なコメントはするものの、対象となる取引の固有の事情に即したチェックまでには至らない印象である。チェック対象の契約書の文言だけからでは、取引に関する当事者の意図や、リスクの割り振りのベースとなった価値判断まで汲み取れるとは限らないから、これはある意味当然であろう。

法律関係の業務にも生成AIの利活用が急速に進展している。汎用的な生成AIについては、有料サービスであっても、契約書の作成に関する限り、現時点ではやや信頼性に欠ける印象であるが、AI技術の進歩のスピードに照らせば、いずれはユーザーとの会話(プロンプト入力)を通じてテイラー・メイドの契約書を一から容易に作成できるようになる可能性は十分にあると思われる。リーガル・テック・サービスにも生成AIがすでに実装されており、現時点でも、チャット等で会話しながらの契約書チェックやテイラー・メイドでの作成が実現しつつある。M&Aやプロジェクト・ファイナンスなど、複雑でボリュームのある契約書の作成にも対応できるサービスも報道されている。

いずれにしても、ユーザーが的確なリクエストをすることが前提であり、また、生成AIが作成したドラフトに対し、これを評価して追加的な調整や修正を指示して契約書は完成するのだから、少なくとも当面は、ユーザー自身が「良い」契約書の評価基準をもつこと、そして、具体的な取引に応じて、当事者間の役割やリスク配分を構想する技術はなお必要であり続けるだろう。

遠山秀

社会課題の解決に取り組み、新しい法領域に積極的にチャレンジして、実践の成果を依頼者の皆様と分かち合っていきたいと考えています。