Q.部活動の顧問の時間外労働が常態化しています。しかし顧問はそのスポーツに非常に思い入れを持っており、時間外をやめろと言ってもやめません。どうしたらよいでしょうか。
A.部活動の時間帯や休日の活動を制限し、部活動自体の規模を縮減することが考えられます。また、複数の教員による分担、部活動指導員の導入、又は部活動業務の一部の外部委託といった方策も考えられます。
◎部活動業務による時間外労働の法律上の位置付け
部活動は、法令上の根拠がなく、学習指導要領に定める教育課程には含まれない「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものと位置付けられています。形式的には、学校教育法上の校務(学校の業務をいいます)に含まれないことから、学校として部活動の指導監督に教員を配置する義務もないように見えます。
他方で、学習指導要領は、部活動を「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」としており、実態としても、部活動は学校教育(学校教育法1条に定める学校で行われる教育をいいます)の一環であることは社会において広く承認されているといえます。したがって、学校は、教員に対し、部活動の顧問等としてその指導監督等の業務(以下「部活動業務」といいます)を行うことを命ずることができるし、少なくとも国立・私立学校においては、教員が所定労働時間を超えて部活動業務に従事した場合には、就業規則に定める所定労働時間外の労働、ないし労基法37 条に定める時間外労働をしたと評価されることになります。
ただし、公立学校においては、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる「給特法」)3条2項が、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。」と定め、同法6条及びそれに基づく「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」が、正規の勤務時間を超えて勤務させる場合を限定しているところ、部活動業務はこれに含まれていません。そのため、公立学校の教員は、給特法に基づく「教職調整額」を除き、部活動業務のために時間外労働をしても、追加の賃金は支払われません(労基法37 条の適用がないので、同条に基づく割増賃金も支払われません)。国立・私立学校の教員には労働基準法が適用されますが、実態としては、公立学校にならい、「教職調整額」という名目で固定残業代のような手当が支給されるだけのケースが多いようです。
◎部活動業務に関する学校の安全配慮義務
学校は、使用者として、教職員に対し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(いわゆる安全配慮義務)を負います。しかし、公立学校においては、上記のとおり、部活動業務が正規の勤務時間を超えて勤務させることができる業務に含まれないことから、校長による明確な命令があれば格別、そうでなければ、これを正面から「労働」と位置付けることができません。
事例判断ではありますが、最高裁平成23 年7月12 日判決は、原告となった教員の部活動業務について、「強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたもの」と整理したうえで、時間外労働に係る賃金請求及び長時間労働の精神的苦痛
に係る慰謝料との関係で、学校の安全配慮義務違反を否定しています。
ただし、請求の内容が生命・身体に実際に生じた被害であって、かつ、校長が明示的にあるいは黙示的に部活動業務等に起因する長時間労働を放置していた場合には、学校の安全配慮義務違反が認められています(例えば、最近の裁判例として、水戸地裁下妻支部令和6年2月14日、富山地裁令和5年7月5日、大阪地裁令和4年6月28 日など)。
以上の裁判例の傾向を踏まえると、仮に部活動業務が教員による自主的な活動であったとしても、それにより過大な時間外労働が生じている事実を認識し、または認識できるのであれば、安全配慮義務の観点から、学校としてはその教員に対し時間外労働の削減を命ずることができるし、実際にも命ずるべきであると考えられます。
◎部活動業務に伴う時間外労働削減の方策
現実には、教員に対して時間外労働の削減を命じれば問題が解決するという単純な状況ではないことも多いでしょう。例えば、柔道をはじめとするスポーツ系の部活動において、競技中や練習中に生徒に事故が発生した場合、教員が顧問等として指導監督ないし立ち合いをしていなかったのであれば、生徒が被った生命・身体への損害につき、安全配慮義務違反を理由として学校の責任が問われる可能性があります。また、文科系の部活動であっても、生徒同士のいさかいによる負傷が予見可能なケースもありうるでしょう。部活動における生徒の安全を考慮すれば、教員による指導監督や立ち合いの必要があり、その結果、顧問を務める教員の時間外労働も容易には減らせないかもしれません。
より根本的な対応としては、まず部活動自体を縮減することが考えられます。例えば、活動の時間帯を制限したり、休日の活動を禁止したりするといった方策です。しかし、部活動に参加する生徒やその父兄から反発を受ける可能性があります。また、運用として、原則禁止、例外的に許可という仕組みを作った場合、教員は、そのための事務処理(許可申請など)にかえって余計な時間を費やさざるをえなくなるかもしれません。
したがって、もうひとつの方向性として、例えば負荷の大きい部の部活動業務については複数の教員で分担したり、あるいは、部活動指導員(学校教育法施行規則78 条の2)を起用し、またはこれに相当する者に部活動業務の一部を外部委託したりすることが考えられます。
◎時間外削減の指示に従わない教員への懲戒
最後に、関連して、時間外労働の削減を命じたが、これに従わない教員に対し、業務命令違反を理由として懲戒ないし分限をすることができるかという問題があります。形式的には懲戒事由に該当するとしても、上記のとおり、生徒による部活動の実態によっては、指導監督や立ち合いの必要から、時間外労働が避けられない状況があり得ます。
学校側が上記のような根本的な対応策をとっていれば別ですが、そうでなければ、業務命令に従わない正当な理由があると評価されると考えられます。また、前記のとおり、そもそも学校が、部活動業務をもって教員による自主的な活動と扱い、適切な賃金(残業代)の支払いをしていないのであれば、部活動業務に関して命令を出すことはできず、仮にそのような命令を出しても、その違反は懲戒権行使の対象にはならないと評価される可能性もあります。総じて、部活動業務に伴う時間外活動を削減する命令への不服従を理由として懲戒を科すことは現実的ではないと考えられます(そのような事案の裁判例も見当たりません)。
この記事の内容は、『学校運営の法務Q&A』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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