ここ約10年位の間、全国の裁判所の民事事件における最大のテーマは、「事案の実相に迫った正しい判断をどのようにしたらできるか」でした。このことは、取りも直さず、民事裁判が往々にして、事案の実相に迫らない、誤った判断をしがちであることを示しています。裁判官が裁判を誤るのはなぜか。それは、ひとつには、争点の設定そのものを誤った故であり、ふたつめは、争点について判断するために必要な事実認定を誤った故ということができるのではないかと思います。
元裁判官としての目線から本コラムをお送りいたします。
裁判官が、争点の設定を誤るのは、裁判官の力量が不足している場合や訴訟代理人である弁護士の巧妙な作戦により裁判官が誤った方向に誘導されている場合が多いのではないかと思います。
実際に、当事者が不満を訴える一審の裁判所の判決や記録を見るとその思いを強くします。民事裁判は、従来は要件事実を重視し、厳格な規律を守って、旧様式という形で判決するものでしたが、それが現実離れしていて一般人から分かりにくいという批判があったため、現在では双方のそれぞれの事情を組み込んで具体的に主張させ、新様式という形で判決するものに変わりました。
そのため、判決は一般人からも分かりやすいものになりましたが、他方で、双方が争ってはいても真の争点はそこではないという所が事件の争点とされてしまう場合も散見されるようになっています。
また、裁判官が事実認定を誤るのは、裁判上の事実認定には、立証責任(ある事実を原告と被告のどちらが立証すべきかということで、立証できなかった場合にどちらが不利益を被るかを定めたものです。)を含めてそれに従うべきとされる準則があるのにこれを守らず、誤った事実を認定したり認定すべき事実を認定しない場合が多いのではないかと思います。
多くの場合裁判官は準則にしたがい慎重にかつ謙抑的に事実認定を行っていると信じますが、場合によっては、裁判官の力量不足や、思い込み更には偏見等によって、その判断が誤ってしまう場合もない訳ではありません。
一審で負けてしまいましたが控訴したら逆転勝訴できるでしょうか。私たちが控訴を検討されている依頼者の方から一番多く聞かれる質問です。
それは、まず第一に事案によります。裁判は、相手や裁判官を騙して勝つことを目指すべきではなく、その事案にしたがって、勝つべきものは勝ち、負けるべきものは相応に負けるべきものであると私は思います。
そして第二に裁判官に上記の誤りがあると認められるか否かによります。裁判官の争点の設定や事実認定に誤りがあり結論が誤っている場合には逆転勝訴の可能性があることになります。私たち控訴チームはこの場合のお手伝いに全力を尽くしたいと思います。