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半田靖史

控訴趣意書が裁判官を動かす その2

今回は、控訴趣意書の提出と内容について、注意していただきたい点を述べます。

 

1 控訴趣意書の提出

刑事訴訟法と刑事訴訟規則(以下「法」「規則」ともいいます)は、次のように定めています。

法376条1項

控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。

規則236条1項

控訴裁判所は、訴訟記録の送付を受けたときは、速やかに控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定してこれを控訴申立人に通知しなければならない。控訴申立人に弁護人があるときは、その通知は、弁護人にもこれをしなければならない。

法386条1項

左(=下記)の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。

1号 第376条第1項に定める期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。

 

第1審裁判所(地裁又は簡裁)で判決が宣告されると、その日から14日以内に第1審裁判所に控訴申立書を提出して控訴をすることができます。そうすると、1か月くらいで第1審裁判所から裁判記録が高等裁判所に送られます。高等裁判所は、控訴申立人が控訴趣意書を提出しなければならない最終日を指定して、被告人側が控訴した場合であれば、これを被告人と、既に選任されている弁護人に通知します(規則236条1項)。

★ その後になって選任された弁護人には通知されません。その弁護人は、高裁の記録を見るなどして差出最終日を確認する必要があります。

 

高等裁判所が指定する提出期限は、特に大規模・複雑な事件でなければ、通知のときから30から40日くらい後になるでしょう。

★ 提出期限までに提出しないと控訴が棄却されて、有罪判決が確定してしまいます(法386条1項1号)。この期限は絶対厳守です。

 

2 控訴趣意書の内容

規則240条

控訴趣意書には、控訴の理由を簡潔に明示しなければならない。

法384条

控訴の申立は、第377条乃至第382条及び前条(注:第383条)に規定する事由があることを理由とするときに限り、これをすることができる。

法386条1項

左(=下記)の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。

3号 控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第377条乃至第382条及び第383条に規定する事由に該当しないとき。

 

控訴の理由にすることのできるのは、法377条から382条と383条で定める事項に限られています(法384条)。それは、1審の裁判手続の違法、1審判決の法令の適用の誤り、1審判決の量刑の不当、1審判決の事実認定の誤りなどです。

これら法律に定められた控訴理由に当てはまらない不満や訴えだけを書いても、控訴はすぐに棄却されてしまいます(法386条1項3号)。

★ 『1審判決の量刑は正当だが、その後、更に反省し、弁償もしたから刑を軽くすべきである。』

このような記載では適法な控訴理由が書かれていないのではないかと問題になります。1審の量刑に全く問題がないことはないでしょうから、1審の刑が重すぎるという量刑不当の主張をしておくべきでしょう。

 

したがって、弁護人としては、被告人の不服を踏まえて、1審の手続や判決の問題点を刑事訴訟法が定める控訴の理由として構成し、これを控訴趣意書で簡潔に論じなければなりません(規則240条)。

次回からは、事実認定の誤りと量刑の不当について、具体的に述べていきます。

半田靖史

長い間、裁判官として、刑事事件を中心にたくさんの事件を担当して参りました。いかなる事件においても、冷静かつ客観的に証拠をみることを心がけてきました。厳しい決断を迫られた事件で、判決宣告のときに声が震えそうになったこともありました。立場は異なりますが、弁護士の仕事にも、このような裁判官時代の経験は役に立つと思っています。とはいえ、弁護士としては駆け出しです。当事務所の先輩弁護士から助言を得ながら、依頼者の皆様の利益を実現すべく力を尽くして参ります。

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