Q.大学の教員公募に対する応募者のなかで採用されなかった者からその理由を開示するよ求められましたが、不採用の理由を説明する必要はありますか。
A.大学の教員公募の不採用者からの理由開示要求には応ずる必要はありません。
◎学校法人には採用の自由がある。
大学教員の人事採用は、公募方式もあれば、特定の候補者を選抜して決定するなど多様な方法がとられています。公募方式の場合に、応募者は、不採用の結果について、学校法人にクレームをつけることが可能なのでしょうか。実際には、そのようなクレームが法律問題とな
るのは極めて稀ですが、裁判例もありますので、この問題を考えておきましょう。
まず、一般に使用者による採用について法的にはどのように扱われているかを確認しておくことにしましょう。採用については、使用者は、法律による制約がある場合(性差別について、男女雇用機会均等法、障害について障害者雇用促進法など)を除いて広い裁量がありま
す(採用の自由)。使用者は、どういう方法で募集するか(募集方法の自由)、あるいは、どのような基準で採用するかについて自由に決定できます(選択の自由)。
◎不採用者にその理由などを説明する必要があるか。
では、どのような場合に大学教員の採用が法律問題となったのでしょうか。最近の事案では、大学教員の公募において採用されなかった応募者が、その公募の採用選考過程及び当該応募者の評価について、関係情報を開示し、説明をする義務があるとして大学を訴えた事例があります(学校法人早稲田大学(採用選考情報開示)事件・東京地裁令和4 年5 月12 日)。
応募者は、本件公募に応募し、採用選考手続が開始された以上、大学は、当該応募者に対し、契約締結過程の信義則(民法1条2項)に基づき、情報開示・説明義務を負うと主張していました。これに対して、東京地裁判決は、応募者が書類選考の段階で不合格になったものであって、応募者と大学のあいだで応募者を専任教員として雇用することについての契約交渉が具体的に開始され、交渉が進展し、契約内容が具体化されるなど、契約締結段階に至ったとは認められないので、そもそも契約締結過程において信義則が適用される基礎を欠くとして、応募者の主張を否定しました。
また、本判決は、応募者が公募である以上、透明・公正な採用選考が行われるものと期待していたとしても、その期待は抽象的な期待にとどまり、未だ法的保護に値するとはいえず、大学が専任教員の選考方式として公募制を採用したことから、直ちに本件情報開示・説明義
務が発生する法的根拠は見出し難いとしています。
仮にこの応募者の主張のように、大学教員の採用選考に係る審査方法や審査内容をのちに開示しなければならないとすると、選考過程における自由な議論を委縮させ、大学の採用の自由を損ない、大学の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるということができ
るでしょう。したがって、大学の教員公募において採用されなかった者から理由開示請求に応ずる義務はないと言えます。
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