大学教員に対するリストラなどという話は、日本ではあまり聞いたことがなかった。しかし、大学教員のリストラが現実味を帯び始めている。最近でも、東京都三鷹市にあるルーテル学院大学が25年度以降の募集停止が発表されている(日経新聞2024年3月27日)。文部科学省によれば、少子化により2040年には51万人に減少する見通しである(日経新聞2023年7月14日)。この数字からすると現在の大学総定員の2割が過剰ということになる。とくに中小私大にとっては、生き残りをかけた改革が待ったなしの状況にある。この状況において大学が改革に乗り出すとなると、実に様々な法務問題、リーガルリスクに直面することになる。このコラムでは、前回、労働条件の不利益変更の問題と取り上げたが、今回は、ハードな改革としての大学教員のリストラの問題を考えてみたい。
リストラのような経営都合の解雇は、解雇される側に落ち度があるわけではないので、本人に責任のある解雇の場合とは区別して、整理解雇[1]と呼ばれる。この整理解雇は、具体的には①人員削減の必要性、②解雇回避努力の実施、③被解雇者選定基準の合理性および④労使協議の4つの要素を総合的に判断されることになる。
このことを最近の大学教員に対する整理解雇の裁判例である学校法人西南学院事件(福岡地判令和6・1・19)を素材として具体例で見ておこう。
学校法人西南学院(本件法人)は、令和4年3月に大学院法務研究科(いわゆるロースクール)を廃止した。これに伴って、本件法人は、この大学院で教鞭をとっていた実務家教員(弁護士)を同年11月30日に解雇した。この実務家教員に対する整理解雇の有効性がこの事件の争点であった。
この判決は、解雇時点ではロースクールに教員定員はなく、人員削減の必要性があり、実務家教員は、弁護士としての長年の職務経験を活かし法律実務の教育に従事することを期待されて雇用された実務家教員であり、弁護士業務との兼任も認められていたのであって、ロースクールの実務家教員以外の職種に配置転換されることは想定されていなかったことから、被解雇者選定に合理性があるとした。そして、本件法人は、本件教員の法科大学院廃止以降も学校法人に雇用されて実務家教員としての能力を発揮したいという意向に沿う現実的な雇用維持の方策を模索し、法学部における担当科目の確保を法科大学院廃止前の令和4年3月頃から6月頃にかけて2度にわたり試みたが、法学部が断ったためその方策を実現できなかった。また、本件教員と繰り返し協議を行い、本件解雇の約5か月前に契約解除金の支払等による一定の経済的補償を加算した条件での合意退職を提案し、教員組合とも協議していた。これらの事情から、本件法人以外での稼働が比較的容易なベテランの弁護士であることも考慮すると、解雇に先立ち本件法人は十分な解雇回避努力ないし解雇に伴う不利益軽減措置を実施しており、本件解雇に至るまでの手続も相当であるとして、本件解雇を有効と判断したのである。
この判決からすると、法人内の他の部署への人事異動が予定されていない場合でも、法人が一定の解雇回避努力が払っていたこと、解雇に伴う不利益軽減措置をとっていたこと、及び解雇手続きを丁寧に行っていたことが本件解雇を有効と判断する上で重要な要素となったことがわかる。
この事件は、ロースクール廃止に伴う実務家教員の整理解雇という特殊な事例ではあるが、大学教員の整理解雇として考えても教訓を引き出すことができるだろう。それは、他の部署に配置換えができない場合でも、解雇対象者の希望を丁寧に聞いて、可能な限りでの解雇回避努力または不利益軽減措置を取るべきということである。もっとも、どの程度の措置が必要かは、ケースバイケースであるので、早めに専門家に相談するのが妥当だろう。
[1] 第二次世界大戦後の1949年に占領軍がドッチプランと呼ばれるデフレ政策をとったことに起因して、多くに企業が大量解雇に踏み切った。この際、人を片付けるという意味に人員整理という用語が使われたことから、後に会社都合の解雇が整理解雇と呼ばれるようになった。