港を望む国際契約書 (1)
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遠山秀

「良い国際取引契約書」の3つの基本要素|国際取引契約書のつくり方①

国際取引契約書のつくり方(全4回連載)

I. はじめに

周知のとおり、国際取引には、国内取引とは異なる側面がある。よく挙げられるものとして、1当事者間の商慣習や文化の相違を背景に、しばしば外国語(英語)でのコミュニケーションが求められること、2国際運送、通関、外国為替、外国の法規制の適用、国際的な政治経済情勢など、国内取引にはない追加的な考慮要素を伴うこと、3実際上、紛争解決の手段が限られ、あるいは容易に利用しがたいことなどである。

そのため国際取引に関しては、一般に契約書の重要性が高いし、取引の開始に当たって取引に関する条件をできる限り詳細に契約書に書き込みたいというニーズも強い。他方で、契約書の体裁を整えさえすれば事足りるとする傾向も散見される。

本稿は、上記のような国際取引に伴う諸事情を踏まえ、主としてビジネス・パーソンを対象に、「良い」契約書を作成するための実務上のヒントを提供することを目的とする。

いくつかの典型的な国際取引(輸出入、販売店、技術供与、製造委託、合弁、EPC〔Engineering, Procurement and Construction〕など)を念頭に、ときには具体的な契約条項にも言及しつつ解説する。

なお、本稿の文責は筆者ひとりにあり、筆者が所属する団体等の見解を反映するものではない。

II. 「良い」契約書とは

1. 「良い」契約書の要素

一般に、契約書とは法的拘束力のある当事者の合意内容を記載した文書と定義される。法律家であれば、各当事者の権利・義務の具体的内容を記載した文書などと表現するかもしれない。しかし、ビジネスの現場では、このような定義や概念はあまり役に立たない。

国際取引に限らず、将来に向けて他者と共同して事業活動を行う目的で作成するのであれば、「良い」契約書とは、1各当事者の役割が明確に記載され、2合理的に想定しうるリスクについて、それが顕在化した場合の対応が示され、3それら役割及びリスクの負担が、各当事者の期待リターンや能力に見合ってバランスよく割り振られている文書ということになる。

2. 各当事者の役割の明確な記述

一口に、契約ないし契約書といっても様々なものがあり、例えば過去の紛争を解決するための和解契約(いわゆる示談書など)も契約の一種ではある。

しかし、国際取引を含めビジネスの現場で契約書を作成するのは、将来に向けて、しばしば長期間にわたり、取引先と互いに協力しつつ継続的に活動し、その過程で利益を上げることを目指す場合であろう。

そうであれば、取引の過程における各当事者の役割(履行すべき義務)を具体的に定めることが当然に必要となる(パフォーマンス・プランニングと呼ぶことがある)。

売主と買主だけの単純な輸出入取引であれば、各当事者の役割は明らかと思われるかもしれないが、現実には、例えば輸送手段の手配や輸送保険の付保、あるいは、輸出通関や輸入通関の手続を誰が行うかといった実務のレベルまで当事者の役割が定まっていないと、取引をするたびにいちいち相手方と協議をしなければならなくなる。

多数の当事者が関わる取引、例えば資源やインフラの開発プロジェクトや製造の合弁事業などであれば、事業の過程で多くの複雑な業務が発生するから、漏れのないような形で、それらの業務を各当事者の役割としてあらかじめ割り振っておかなければ、事業自体スムーズに進行しないであろう。

3. 役割とリターンのバランス

各当事者の役割は、抽象的なレベルでは、その当事者が取引を通じてどのように利益(リターン)を得ようとしているかを概ね反映する。

逆に言えば、対象となる取引を分解して、各当事者が利益を得ようとする部分に関する具体的な活動をその当事者に割り振ることが自然ということになる。

例えば、国内のメーカーと外国の販売業者との取引基本契約(「販売店契約」)であれば、メーカーは自社の商品を新たな市場向けに輸出することでリターンを得ようとするのだから、当該市場向けの商品を製造し、外国の販売業者に引き渡すまでの活動全般がその役割となり、他方、販売業者は、自国の市場に新たな商品を投入して販売することを通じて利益を上げようと企図するのだから、引き渡し後、当該商品を保管し、小売店やエンド・ユーザーに販売し、必要に応じてアフター・サービスを提供するまでの一連の活動がその役割となる。

なお、インコタームズは、国際貿易における売主と買主との間の取引条件について、費用負担及び危険負担の各分岐点を基準に類型化したものだが、売主と買主それぞれの役割を反映したものと捉えることも可能である(ただし、厳密には両者は一致しないし、契約書で異なる条件を定めることも少なくない)。

また、製造の合弁契約であれば、製造技術をライセンスしてロイヤルティ収入を得ることを期待する合弁パートナーが、合弁会社に対して特許権やノウハウをライセンスしたうえで、実際に技術を移転し、商業生産を実現するまで指導・訓練する役割を担うのが自然であろう。

他方、原材料の販売を期待する合弁パートナーであれば、合弁会社に対し、試作段階から量産に至るまで継続して必要な原材料を安定的に供給する役割を担うことが自然であろう。

ただし、当事者が担当すべき領域は、各当事者の期待利益の所在だけから必然的に導かれるとは限らない。

上記の販売店契約の例で言えば、取引ボリュームは、結局のところ、販売業者の側の市場でどれだけ商品が売れるかに依存するから、メーカーとしては、販売業者による販売活動に積極的に関与し協力することが自らの利益になるかもしれない。

具体的には、例えば、商品見本の提供、カタログその他販売ツールの提供、セールスマンを対象とする商品説明やトレーニング、展示会への出品への協力、広告宣伝費の一部負担などであり、このような役割をメーカーが自らの義務として引き受け、契約書に定めることがある。

また、合弁契約において、例えば、相対的に財務上の信用力の高い合弁パートナーが、自らの出資比率を超えて、合弁会社の資金調達に関し債務保証をする役割を引き受けることもある。

いうなれば、応益的な基準を原則としつつ、応能的な要素も考慮して、役割分担を調整するということである。

遠山秀

社会課題の解決に取り組み、新しい法領域に積極的にチャレンジして、実践の成果を依頼者の皆様と分かち合っていきたいと考えています。