本コラムでは、私立学校がしておかなければならないいじめ対策と、いじめ重大事態発生時の対応を解説します。
いじめ防止基本方針の策定義務
いじめ防止対策推進法13条により、各学校には、いじめ防止基本方針を策定する義務があります。策定した基本方針は、ホームページ等で公開することが一般的です。
しかしながら、こうした義務があることを知らずに策定を怠っていたり、実際に事が起きたときに迅速な対応を行うことができない内容となっている学校もあります。
対策組織の設置義務
学校は、教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を必ず設置しなければなりません(法22条)。
また、以下に説明する重大事態発生時には、対応を行う調査組織を、学校の設置者又は学校に設置しなければなりません(法28条)。
重大事態とは
いじめ防止対策推進法28条1項は、次の2つの場合を「重大事態」と定めており、これらに該当する場合には調査を行わなければならないとしています。
①いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき(生命心身財産重大事態、1号)。
②いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間(年間30日が目安)学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき(不登校重大事態、2号)。
③加えて、ガイドラインでは、児童や保護者からいじめにより重大な被害が生じたという申立てがあった場合も重大事態として扱うこととしています。
重大事態、というと極めて珍しいケースのように思えますが、上記の定義に照らせば、多くの学校において毎年複数件の重大事態が発生していると考えられます。
多くの方が勘違いをしやすいポイントとしては、「疑い」や「申立て」があれば重大事態もしくは重大事態扱いです。調査の結果、最終的にいじめの事実認定や評価がされなかったとしても、重大事態や扱いには該当しています。
重大事態発生時の初期対応
重大事態が発生した場合、まずは迅速に発生報告を行います。私立学校の場合には、所轄の都道府県知事(実際の連絡先としては学事課、東京都の場合には私学部)に対して報告を行います(法31条)。東京都の場合には所定の報告様式がありますので、記入して提出します。
並行して、調査を行う組織を設置します。組織の設置時には、各学校の基本方針に則って、次の事項を決定します。
・組織を法人に置くのか、各学校に置くのか
・内部の人員で構成するのか(当該学校の教員のほか、同じ法人が設置する他の学校の教員により組織する場合もあるでしょう)、外部の第三者委員によるのか
・弁護士や心理の専門家など、有資格者に依頼するのか
調査組織は各事案の性質も加味した上で構成を検討すべきです。また、大切なことは、調査組織の構成や調査方法の決定について、被害を申告している当事者の意向を確認し、尊重することです。
組織が決まったら、事案に合わせて調査方法を吟味し、調査を進めていきます。
多くの場合、調査前後には当事者への説明が必要となるほか、個人情報の取り扱いや、当事者への情報共有に関する判断を行う必要が生じます。
当事者のために早期に相談を
特に私立学校においては、個人情報保護の制約があり他の法人との情報共有が出来ないことから、対応経験が集積しにくく、重大事態発生時の対応フローの確立が遅れる傾向があります。いじめ防止対策推進法は平成25年成立と比較的新しい法律であり、法人職員や現場の教員が、法律上求められている手続を知らないことも多いと感じています。対策組織の構成員になっていることを、当の教員が把握していないケースも度々目にします。
対応が後手に回れば証拠が散逸する危険がある一方、早期に対応し当事者への支援を行うことで、長期の不登校を回避できることもあります。重大事態発生時、対応に不安がある場合には、是非早期に専門家にご相談ください。
また、平時から、有事を意識した基本方針を定め、対策組織を準備しておくほか、教員研修及びいじめ予防授業を行うこと、マニュアルを作成しておくことなど、出来ることは数多くあります。これらについても、お気軽にご相談いただければと思います。