近年、台湾に進出する日本企業や日台間の取引が増加するなか、租税協定を活用した税務負担の最適化と税務コンプライアンスの重要性が高まっています。もっとも、日本と台湾の間には正式な国交がないため、国家間で「租税条約」を締結することはできません。それに代わるものとして、公益財団法人日本台湾交流協会(日本側)と亜東関係協会(台湾側、現在の台湾日本関係協会)という民間機関の間で「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」(通称:「日台租税協定」)が締結され、2017年より適用が開始されています。
この協定は、実質的に二国間の租税条約と同様の役割を果たします。適用要件を満たせば、「営利事業所得税の免除」(20%→0%)や「配当・ロイヤリティに対する源泉税率の大幅な引き下げ」(配当21%→10%、ロイヤリティ20%→10%)といったように、台湾での税負担を大きく軽減し、二重課税を回避することができます。本コラムでは、日本企業が台湾との取引で直面しやすい①「営利事業所得税(日本の法人税等に相当)」、②「配当」、③「ロイヤリティ(使用料)」の3つを取り上げ、それぞれの減免要件について解説します。
1.営利事業所得税(事業利得)
日本企業が台湾の顧客にサービスを提供し、台湾源泉の所得(事業利得)を得る場合、台湾所得税法第88条に基づき、原則として当該事業所得に対して20%の営利事業所得税(源泉税)が課されます。また、台湾内に固定営業場所や営業代理人がない場合には、原則として対価を支払う側(例:台湾の顧客)が源泉徴収義務を負います。
法律上、「台湾源泉所得」は広く定義されており、台湾から得られる所得・利益の多くがこれに該当する可能性があります。台湾源泉所得に該当する場合、前述のとおり20%の源泉所得税が課されますが、日台租税協定第7条を適用すれば、一定の要件のもとで免税を受けられます。
日台租税協定第7条によると、一方の地域の企業(日本企業)の事業利得に対しては、台湾内に「恒久的施設」(Permanent Establishment、以下「PE」といいます。)を通じて事業を行わない限り、日本でのみ租税を課すことができると規定されています。つまり、日本企業が台湾内にPEを有していない状態で得た事業所得については、台湾での課税が免除され(20%→0%)、日本における法人税等のみが課されることになります。
では、どのような活動や拠点がPEとみなされ、免税の対象外となるのでしょうか。日台租税協定第5条ではPEの範囲を以下のように定めています。
- (1)事業活動の拠点:事業の管理の場所、支店、事務所、工場、作業場等を有している場合。
- (2)長期の建設プロジェクト等:建築工事現場、建設・組立て・据付けの工事、またはこれらに関連する監督活動が「6ヶ月」を超える期間存続する場合。
- (3)役務(サービス)の継続的提供:企業が従業員等を通じてコンサルタント等の役務提供を行う場合で、その活動が12ヶ月の間で合計「183日」を超える期間にわたり台湾内で行われる場合。
ただし、単なる商品の「保管、展示、引渡し」のみを目的とする施設の利用や、「情報の収集」、「準備的または補助的な性格の活動」のみを行う拠点はPEから除外されます。そのため、自社の台湾での活動がPEに該当するか否かを慎重に確認する必要があります。
2.配当
台湾に子会社や合弁会社を設立している日本企業にとって、台湾法人から得られる利益の分配である「配当」に対する課税関係は、重要な検討事項の一つです。
台湾の所得税法によると、非居住者(日本法人等)に対して配当を支払う際、通常21%という高い税率で源泉徴収が行われます。しかし、日台租税協定が適用される場合、源泉地国(台湾)での税率の上限を「10%」に抑えることができます。これにより、日本の親会社は配当金に対する台湾での重い源泉税負担を回避することができます。
3.ロイヤリティ(使用料)
日本企業が台湾の関連企業や現地の取引先に対し、自社の技術・ノウハウ、著作権等をライセンス付与し、その対価としてロイヤリティを受け取る場合、非居住者(日本法人等)に支払われる当該ロイヤリティについては、台湾の税法上、一般的に20%の源泉徴収が行われます。しかし、日台租税協定が適用される場合は、配当と同様に税率の上限が「10%」に引き下げられ、租税減免のメリットを受けることが可能です。
協定上、ロイヤリティの定義は幅広く定められており、例えば下記のような権利の使用や情報の提供に対する対価として受領されるすべての支払金がロイヤリティに該当します。
- (1)文学上、芸術上または学術上の著作物(映画フィルム、テレビ・ラジオ放送用テープ等を含む。)の著作権
- (2)特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式または秘密工程(ノウハウ)
- (3)産業上、商業上または学術上の経験に関する情報
※なお、実務上は、日本側が「事業利得」(免税)と想定して提供したサービス対価であっても、台湾税務当局から「ノウハウの提供(ロイヤリティ)」と認定され、10%の課税対象とされるケースもあります。
おわりに
日台租税協定は、日本企業が台湾で事業展開する際に大きな租税メリットをもたらす重要なツールとなります。ただし、上記の日台租税協定に基づく租税減免は自動的に適用されるものではなく、台湾の所轄税務官庁に対して適用申請を行う必要があります。
実務上は、台湾側の対価支払者(顧客等)または現地の会計士等の代理人を通じて申請を行うのが一般的です。また、申請の際の必要書類として、所定の申請書式や対象取引に応じた関連証明書類(対価の根拠となる契約書、株式の持分証明書、ライセンス契約書等)のほか、日本の税務署が発行する「居住者証明書」の提出が求められます。手続きを円滑に進めるためにも、あらかじめ日本で居住者証明書を取得しておく等、早めに準備に取り掛かることをお勧めします。
※本コラムに記載されている情報は、2026年8月現在の法令及び日台租税協定に基づく一般的な解説です。法令の改正や税務当局の運用変更が生じる可能性があるほか、個別の事案における適用の可否は取引の実態により異なります。具体的な状況については、必ず専門家にご相談の上ご判断ください。



