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稲村宥人

Chat GPT4を自社ビジネスで使ってよいの?-OpenAI社の規約を読んでみる

みなさん。ChatGPT4を使っていますか?

すごいですね、ChatGPT4。知的労働の時間は半分になってしまいそうです。

私ですらこう思うのですから、Chat GPTを自社のいろいろなビジネスに使ってみたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、実際に自社のビジネスで使ってみて、なにかリスクが起きたらどうしよう?と不安に思われる方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は、弁護士の視点からみたChat GPT利用時の注意事項を、Open AI社の利用規約(Terms of use:https://openai.com/policies/terms-of-use 以下、単に「規約」といいます。)を読み解きながら解説していきたいと思います。

 

1.そもそも誰が使えるの?

Chat GPTは、アメリカ、カルフォルニア州にあるOpen AI, L.L.Cが提供するウェブサービスです。

Open AI社のサービスは13歳以上の個人や、法人・団体が利用できるようです(1. Registration and Access参照)

ただし、18歳未満の方は、親権者・法定代理人の許可が必要ですし、法人・団体が利用するためには、Open AI社の規約に同意する権限を有した人がOpen AI社に登録をする必要があります。

Open AI社の規約に同意する権限を有した人というのは、Open AI社と契約を締結する権限がある人を意味します。誰がどういう契約締結をする権限を持っているかは、それぞれの法人・団体内でも異なるでしょうから、もし会社などの法人で契約したいとおもっている場合は、社内の決裁権者を確認してみましょう。もちろん、自分が会社の代表取締役であるというなら、自分が規約に同意すれば足ります。

 

【ポイント】

・13歳以上の個人、法人・団体が使えます。

・ただ、18歳未満の人は、親権者・法定代理人の許可が必要です。

・法人・団体が利用するために登録するときは、決裁権がある人が登録しましょう。

 

2.Chat GPTに入力した質問はAI学習に使われる?

Chat GPTに入力した質問はChat GPTのAI学習に使われてしまうのでしょうか?もし、Open AI社に読みこまれてしまうと、なにかの拍子に自分が読み込ませた情報が回答に出てきてしまう可能性も否定できません。

そうなると、会社の機密情報や個人情報はもちろん、まだ発表していないビジネスアイデアや取引先の情報などを入力することは慎重になってしまいますよね。

 

この点について規約には以下のように定められています。

3. Content

(c) Use of Content to Improve Services. We do not use Content that you provide to or receive from our API (“API Content”) to develop or improve our Services. We may use Content from Services other than our API (“Non-API Content”) to help develop and improve our Services. You can read more here about how Non-API Content may be used to improve model performance. If you do not want your Non-API Content used to improve Services, you can opt out by filling out this form. Please note that in some cases this may limit the ability of our Services to better address your specific use case.

いろいろ書いてありますがまとめると以下のようになります。

①Open AI社のAPIから受け取ったコンテンツ(AIに投稿した質問や回答)は、本サービスの向上のためには使用しない。

②Open AI社のAPI以下のサービスから受け取ったコンテンツ(以下「API以外のコンテンツ」)は、当社のサービスの開発および改善に役立てるために使用することがある。ただし、申請しオプトアウトすれば使用されないようにすることは可能。(ただし、この場合Chat GPTの機能の一部が制限されることがある。)

 

Open AI社のAPIから読み込ませた情報は、Chat GPTのAI学習に使われることはなさそうです(あくまで規約上の定めを前提とすればですが。)。他方、Open AI社のAPI以外のサービスから読み込ませた情報は、Chat GPTのAI学習に使われてしまうとのこと。このOpen AI社のAPI以外のサービスには、Open AI社のウェブサイトから使用できるChat GPTのサービスも含まれていると思われます。

なので、Open AI社のウェブサイトから利用できるChat GPTのサービスには、会社の機密情報や個人情報はもちろん、まだ発表していないビジネスアイデアなどの未公表の情報は読み込ませないほうが良さそうです。

(なお、令和5年3月20日16時現在Chat GPT-4のAPIを使用するためにはウェイトリストに登録する必要があります。)

 

ではAPIの利用であれば機密情報を入力しても大丈夫ですか?と聞かれると、弁護士としては若干の悩みを持っています。その理由は以下の条文です。

OpenAI may use Content to provide and maintain the Services, comply with applicable law, and enforce our policies.(3.Content(a) Your Content.第4文)

ここには、Open AI社がサービスの提供や法令の遵守、ポリシーの執行のためにコンテンツを使用することがあると書かれています。

この記載からすると、APIサービスでも、Open AI社の側は入力した情報を取得できている可能性は否めなさそうです。

なので、現時点では機密情報や個人情報、非公開の情報は、APIで利用する場合であっても、Chat GPTに入力しないほうが良いでしょう。

 

なお、どうしても個人情報を入力したり、Chat GPTを個人情報の処理のために使用したい場合には(あまりないとおもいますが)Open AI社に申請が必要になりますのでご留意ください(5. Confidentiality, Security and Data Protection (c) Processing of Personal Data)

 

【ポイント】

・APIサービスを通じて入力された情報はAIは学習には使われないようです。

・他方でnon-APIサービスに入力した情報はAI学習に使用されます。

・とはいえ、Open AI社からはAPIサービスからの入力を含めて、ユーザーが入力した情報はすべて見えている可能性はありますので、機密情報や個人情報はもちろん、まだ発表していないビジネスアイデアなどの未公表の情報は入力しないほうが良さそうです。

 

3.Chat GPTの回答はどのようにつかってもよい?

Chat GPTから出力された回答を利用するにはどのような注意点があるのでしょうか。この点について規約は以下のように定めています。

3. Content

(a) Your Content. You may provide input to the Services (“Input”), and receive output generated and returned by the Services based on the Input (“Output”). Input and Output are collectively “Content.” As between the parties and to the extent permitted by applicable law, you own all Input. Subject to your compliance with these Terms, OpenAI hereby assigns to you all its right, title and interest in and to Output. This means you can use Content for any purpose, including commercial purposes such as sale or publication, if you comply with these Terms. OpenAI may use Content to provide and maintain the Services, comply with applicable law, and enforce our policies. You are responsible for Content, including for ensuring that it does not violate any applicable law or these Terms.

 

Chat GPTから出力された回答は、規約を遵守する限り、回答の出力を受けた当事者にすべて譲渡される(OpenAI hereby assigns to you all its right.)そうです。なので、Chat GPTから受け取った回答は、自由に自分のビジネスで使用することができます。

ただし、Chat GPTは必ずしも情報を一から創作しているわけではありません。場合によっては、すでに第三者が発表した情報がそのまま出力される場合もあります。

このような第三者がすでに発表した情報については、当該発表者の著作権その他の権利が残存している可能性があります。そのため、Chat GPTから出力された情報が、だれかの権利を侵害していないか、利用前に慎重に検討する必要があります。

また、Chat GPTは必ずしも“正しい回答”をしている保証はありません。Chat GPTがした回答が正確なのか、誤りがないかについては、きちんと利用者の目で検証をする必要があります。

最後に、Chat GPTは同じような質問には同じような回答をする可能性があります。すなわち、仮にChat GPTがした回答が独創的であったとしても、他人が同じ回答を取得し、かつ当該回答についての権利を取得する可能性があるのです。このことは規約3. Content(b) Similarity of Contentでも述べられています。たとえ、似たような回答を第三者が利用していたとしても、Chat GPTの利用者はその回答について自分の権利を主張することはできません。

 

【ポイント】

・Chat GPTを通じて得た回答は権利譲渡され自由に利用することができます。

・ただし、利用にあたってはその回答内容が第三者の著作権その他の権利を侵害していないか慎重に確認する必要があります。

・また、内容の正確性についても利用者が検証しなければなりません、

・Chat GPTを通じて第三者が得た回答が、自らに権利譲渡された回答と似ていても、第三者に権利主張をすることはできません。

 

 

4.その他の注意事項

 まず、Open AI社はアメリカ・カルフォルニア州の会社です。

Open AI社との契約はカルフォルニア州法によって解釈されますし、紛争解決には米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所に管轄があることになります。

そのため、Open AI社との紛争に関してはサンフランシスコでの対応が必要になることにご注意ください。

 

また、カルフォルニア州は、CCPAと呼ばれる独自の個人情報保護ルールが定められています。

 

5.おわりに

Chat GPTのような新技術は、上手に使えば自社のビジネスの強い武器になる一方で、使い方を誤れば、予想外の損害を生みかねない諸刃の剣でもあります。

諸刃の剣が自分を傷つけることがないよう、新技術にまつわるリスクを理解したうえで、独創的なビジネスに役立てていっていただければ幸いです。

 

 

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上記の記載は、2023年3月20日時点で有効なOpen AI社の利用規約を前提としています。今後の規約の変更により、取り扱いが変更になる場合がありますのでご注意ください。

また、当職は、Open AI社が規約を遵守していること、規約通りの運用を実際に行っていることについて何らの確認をしていません。上記はあくまでOpen AI社の規約上のリスクを説明したにとどまります。

また、会社のビジネスモデルなどによっても、具体的な法的課題の有無・リスクは異なります。Chat GPTをビジネスへ利用する際はかならず事前に顧問弁護士等へのご相談をしていただけますようお願いいたします。

稲村宥人

ITベンチャー・スタートアップなどの中小企業、NPO法人などの非営利法人の法的アドバイスを中心に、地方公共団体などの行政機関の顧問業務を専門としています。 企業法務においては、契約書作成・労働問題・事業承継などの一般的な法律相談のみならず、資金調達や知財戦略など、企業のお困りごとの相談をワンストップで受け付けています。 依頼者と共に歩幅を合わせて二人三脚で歩む、そんな弁護士であることを心がけています。

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