Q.本学の准教授について、経歴詐称があるとの告発がありました。確認したところ、確かに詐称があるようです。学歴の大半が海外だったこともあり、当初雇用のときには本人の持参した履歴書を信用し、経歴詐称は照会をかけていませんでした。本学として、どのように対応したらよいでしょうか。
A.懲戒事由に当たり得るうえ、それが重大な場合は懲戒解雇も有効でしょう。また、大学に対する詐欺による不法行為が成立し、損害賠償請求が認められることもあります。
◎採用時における応募者の真実告知義務
まず、本問における大学と准教授の間には雇用契約が締結されていることになりますが、雇用契約とは、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であることから、雇用契約を締結する際には、労働者は使用者の申告の求め(職務を遂行する能力と合理的関連性を有する事項に限ります。)に対して、信義則上の真実告知義務を負うものとされています(東京地裁平成22年11月10日)。
本問では准教授が雇用契約締結時に提出した履歴書記載の経歴が詐称したとのことなので、使用者たる大学に対する真実告知義務に違反したことになります。
◎経歴詐称による懲戒・解雇
では、この真実告知義務違反を理由として、当該准教授を懲戒または解雇することは可能でしょうか。
判例は、経歴は企業秩序の維持にかかわる重要な事項であるから、これを詐称することは懲戒事由になりうる、としています(最高裁平成3年9月19日)。
したがって、経歴詐称が就業規則の懲戒事由に挙げられていることを前提に、これを理由として当該准教授に対して懲戒処分を課すことは可能です。
また、懲戒解雇についても「重要な経歴の詐称」であれば、懲戒解雇処分の対象となるとされています。この「重要な経歴」とは、継続的な雇用契約における労働者と使用者の信頼関係を毀損するようなもの、例えば学歴、職歴、犯罪歴などをいうものと考えられています。
その上で、解雇相当性については、採用に当たって使用者が重要視した経歴、詐称された経歴の内容、詐称の程度及び企業秩序への危険の程度等を総合的に判断する必要があります。
「准教授」という職業に鑑みれば、学歴は採否の判断や、人事評価においても重要な要素であることは間違いないはずですから、これを詐称することは使用者たる大学との信頼関係を毀損するものです。
したがって、詐称された経歴の内容、詐称の程度や大学内秩序への影響等を総合的に判断し、当該准教授を懲戒解雇処分とすることが可能か判断されるものと考えられます。
◎経歴詐称者への損害賠償請求
次に、組織内における処分とは別に、詐欺による不法行為の成立を理由とした損害賠償請求を行うことも考えられますが、学歴詐称を理由とした損害賠償請求の可否が争われた裁判例では、学歴詐称が直ちに不法行為を構成し,当該労働者に支払われた賃金全てが不法行為と相当因果関係のある損害になるものではないし、当該労働者の能力不足を理由とした不測の支出の全てが損害となるわけでもない、としています(東京地裁平成27年6月2日)。詐称者が、詐称するにとどまらず、より積極的に当該詐称を前提に賃金の上乗せを求めたり、何らかの支出を働きかけるなどしたりした場合に、はじめて詐欺による不法行為が成立し、当該支出が損害となる旨判示しています。
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