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<span>川澤直康</span>
川澤直康

CBDビジネスを巡る法規制について①

「CBD入りケーキを作って販売しようと考えているんだけど、問題ない?」
先日、古くからの友人にこんな相談をされました。
ちょうど厚生労働省がCBDにも関係がある大麻取締法について改正に向けた方向性を取りまとめたというニュース1があったタイミングです。これによって市場への新規参入者が大きく増加するかもしれないから、できたらその前に…とのことでした。

この友人は見かけと違って手堅く商売をするタイプであり、基本的に一過性の流行を追いかけることはしません。これはCBDがただのトレンドから文化として定着していく時期になったのかもしれない、と感じました。これからも同じような相談はどんどん増えていきそうです。
 そこで、改めてCBDビジネスを取り巻く法的規制について説明したいと思います。

1 そもそも「CBD」ってなに?

  CBDとは、麻または大麻に含まれる化学化合物であるカンナビジオール(Cannabidiol)のことです。カンナビジオールには不安や発作の治療、痛みの軽減、抗酸化作用など、様々な効果があるとされています。
 そのため、健康やウェルネス、美容を目的としたCBDの需要は世界的にも高く、その市場規模は2021年に51億8000万米ドルとなり、さらに2022年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)16.8%で拡大する(2030年には約210億米ドル)と予測されています2

 日本においても、電子タバコで使用するリキッド、ワックスのほか、スキンケアオイル、リップバームなどの化粧品や、チョコレート、グミなどの食品等、様々な種類の商品が市場に出回っており、また、女性誌などでもこうした商品を紹介する多くの特集が組まれています。

2 CBD製品を取り巻く法的規制の概要

CBD製品を取り巻く法的規制ですが、大きく2つに分類できます。

(1) 一つ目は、CBD製品そのものに関係する法的規制です。
 具体的には、CBDは大麻に含まれる化学化合物であるため、「大麻取締法」との関係が問題となります。
 また、CBDは化学化合物なのでわざわざ大麻から抽出しなくても合成することが可能です。合成されたCBDであれば大麻取締法に代わって麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」といいます。)との関係が問題となってきます。

 

(2) 二つ目は、CBD製品を扱う際の法的規制です。

 まず、CBDを入手する際の規制です。CBDビジネスを開始するにあたっては当然CBDを製造するなり、輸入するなりして入手しなければなりませんが、その際の規制があります。

 

 次に、最近の研究によってCBDには、さまざまな効果があるらしいことがわかってきましたが、承認を受けた医薬品というわけではありません。したがって、医薬品や化粧品等に関する販売方法、広告方法等について定めた医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)との関係が問題となります。
 さらに、現在CBD製品は前述のとおり多種多様なものが市場に出回っているので、その商品の属性によって関係する法的規制もあります。

CBDそのものに対する法的規制

(1)大麻取締法とCBD

 大麻取締法は、この法律によって規制する「大麻」について同法第一条で以下のように定義しています。

第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。

 要するに、大麻取締法で規制される「大麻」をまとめると以下のとおりとなります。

規制対象

大麻草の

花穂、葉、未成熟の茎、根、成熟した茎から分離した樹脂

及びこれらの製品

規制対象外

大麻草の

種子、成熟した茎

及びこれらの製品

(成熟した茎の樹脂を除く)

 このように大麻取締法は大麻草の部位に基づく規制を行っているので、原則論からいうと、規制対象外の部位から抽出されたCBDであれば大麻取締法に違反しないということになりますし、規制対象とされる部位から抽出されたCBDは違法になってしまうということです。

 まったく同じ「CBD」という成分なのに、なぜこのように正反対の結論になるのでしょうか?

 この原因は、いうまでもなく大麻取締法が部位規制を行っているからですが、この背景には同法が制定された1948年当時は、大麻の有害とされる作用がどのような成分から引きおこされるかが判明されていなかったという事情があります。

 要するに、「大麻草のこの部位を使用する場合に大麻の人体に有害とされる作用が引き起こされるから、この部位を取り扱うのを禁止しよう」という経験則に基づいた規制方法しか取りえなかったから、といえます。
 しかし、その後1960年代には、大麻の有害とされる作用は、主に規制対象部位に含まれる「THC」3という成分が引き起こすことが明らかになりました。

 敷衍すれば大麻規制の目的は、大麻草に含まれるこの「THC」を規制することにあるといえます。

 したがって、大麻取締法を素直に読めば、先述したように規制対象外の部位から抽出されたCBDであれば大麻取締法に違反しないし、規制対象とされる部位から抽出されたCBDは違法になるはずですが、実際の法律運用は、部位による規制の判断をTHC4 の検出の有無に基づいて行っています。
 そのため、現実的にはあるCBD製品からTHCが検出されなければ、「当該CBD製品は規制対象外の部位から抽出されたもの」と判断され、大麻取締法違反とされることはないでしょう。

 反対に、あるCBD製品からTHCが検出されてしまった場合、「当該CBD製品は規制対象外部位から作られているという確認ができない」と判断され、当該CBD製品は大麻取締法違反とされてしまうことになるので注意が必要です。

(2) 麻向法とCBD

 麻向法においてCBDは規制対象とはされていません。
 したがって、当該CBDが化学合成由来のものであった場合には、麻向法の規制対象となる成分が含有されていないかが問題となるだけです(これについてはCBD製品に限らずどんな製品でも同じですね。)。

※なお、同法においてはTHCの異性体7種類5が規制対象とされていますが、大麻草に含まれるTHC(天然由来のΔ8−THC及びΔ9−THC)は規制対象とはなっていません6。 

以上、ざっとCBD製品そのものに関係する法的規制について説明してきました。

次回は、CBD製品を扱う際の法的規制や、大麻取締法改正の動きについて説明いたします。

大麻取締法

大麻草の成熟した茎又は種子から抽出されたものであれば適法。

どの部位から抽出されたものかについての実務上の判断基準はTHC(Δ9−THC)検出の有無による。

麻向法

同法の規制対象成分が含有されていなければ適法。

3

正確にはTHCの異性体である「Δ9−THC」。規制部位には他にTHCの異性体「Δ8−THC」も含まれる。

4

正確には大麻草に含まれる天然由来のΔ9−THC。

5

異性体とは同じ数、同じ種類の原子を持ちながら、構造が異なる化合物のことを指す。

①Δ6a(7)−THC、②Δ6a(10a)−THC、③Δ7−THC、④Δ8−THC、⑤Δ9−THC、⑥Δ9(11)−THC、⑦Δ10−THC、の7種類。

6

上記のうち、大麻草に含まれる天然由来の④及び⑤は含まれておらず、④及び⑤は化学合成由来のみ規制対象。

川澤直康

「自由」「革新」「貢献」という当所の理念に惹かれ当事務所に入所しました。依頼者の方にとって最善の解決方法は何か、依頼者の方の思いに寄り添い、その利益を最大化できるよう尽力します。よろしくお願いいたします。