学校法人において研究費等の不正使用が発覚したケースにおいて、その研究費等が科学研究費補助金などの「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(以下、「適正化法」といいます。)における補助金の場合は、当該補助金の「他の用途への使用」(適正化法11条)に該当するおそれがありますし、私立学校振興助成法に基づく補助金の不正使用等についても学校法人として厳格かつ迅速な対応を求められます。
具体的には不正使用の調査から始まり、各省各庁の長や機関への報告、その後の返還請求及び補助金減額措置への対応等です。
加えて不正使用者への懲戒処分や民事・刑事の法的手続きも想定されます。これは学校法人特有のものではありませんが、不正使用の調査、不正事実の認定という面においては下述と同じような流れになります。
以下に主なポイントを説明します。
1 証拠の保全について
補助金の不正使用という疑いがどのように発覚したのか、その経緯にかかわらず、不正使用の事実を認定するにあたっては、領収証、請求書及びメール、録音データ等の資料がもっとも重要な証拠となります。また、当該研究費や周辺事実に係る客観的証拠をできる限り多く収集、確保することで、不正使用疑惑の概要が判明し、事実認定にあたってのおおよその方向性もみえてきます。
したがって、まず客観的な証拠の確保をするべきです。不正使用の疑いの端緒が他の研究者や学生等からの通報であれば、通報者の協力も期待できます。
もっとも、メールデータなどは送信者や受信者において消去することも容易なので、できるだけ早い段階での保存をするべきです(東京地判平成14年2月26日もご参照)。
2 事情聴取について
まず、事情聴取の内容については可能な限り録音データとして残すことが証拠保全の観点から有用です。また、確保できていない客観的証拠についても被聴取者から任意の提出を求めるべきでしょう。
聴取の内容としては、本人が不正使用を認めている場合は、その動機や背景、不正使用に至る経緯までの詳細も確認することで、法人内で今後の防止策を講じる場合にも役立ちます。
仮に本人が不正使用を認めない場合、保全済みの客観的証拠との矛盾点について説明を求めるとともに、不正使用をしていないという客観的証拠の共有も求めるべきです。
通報者に対する事情聴取においては、基本的に聴取に協力的な通報者が多いと考えられますが、大学機関における補助金不正使用のような類型は、研究室単位で不正な運用が行われていることも多く、少なくとも形式的には通報者と本人が共犯関係にあたる場合も多いことには留意して聴取にあたるべきです。
3 その他の注意点
上述した補助金の不正使用に係る調査とは別に、学校法人として当該不正使用者に対して懲戒処分を課することがあると思いますが、懲戒手続は上記調査とは別の手続きです。
したがって、別途どのような懲戒処分事由に該当するかの検討や弁明の機会の付与など、適正な手続きに基づいて行わなくてはなりません。
後に手続面の不備を理由に懲戒処分が無効などと判断されないよう、留意する必要があります。
4 まとめ
補助金の不正使用は、学校法人にとって重大なリスクになり得ます。迅速な対応の必要性を理解し、速やかに適切な措置を講じることが、信用回復と将来的なリスクの回避につながります。
内部調査を行い、各省各庁の長への報告及び不正使用分の返還請求等に対応することや、その後も内部統制体制の強化など、すべきことは多岐にわたりますが、これを適切に処理するためには専門知識が必要になる場合も多いと考えます。ご不明な点等がある場合はお問い合わせください。