Q.本学が設置している私立高校において、昼休みに校庭で野球をしていた生徒A の打ったボールが、近くの生徒B の顔面に当たり、B は目をけがしました。B は病院で今後視力に影響が出るかもしれないと言われたようで、B の家庭は学校に賠償を求めると言っています。学校に法的な責任は発生するのでしょうか。
A.安全配慮義務違反の有無が問われうる場面とはなりますが、設例に記載された以外にもささまざまな要素を考慮した上で、有責か否かが決されることになります。
◎学校事故の法的責任
本問のような事故が発生した場合、①民事上の責任、②刑事上の責任(いわゆる刑罰)、③行政法上の責任(公立学校の場合、地方公務員法上の懲戒処分)と、大きく3種類あります。
このうち、本問では、上記のうち、①の民事上の責任(金銭賠償責任)の有無が問われています。
◎安全配慮義務
学校法人(本問では私立高校)と生徒のあいだでは、在学契約が成立しています。そして、在学契約に基づき発生する学校側の義務として、学校は生徒に対して施設を提供し、また、目的にかなった教育役務を提供しなければなりません。
そして、在学契約の内在する義務あるいは付随的義務として、学校は生徒の生命・身体・健康の安全に配慮する義務を負うものと解されています(安全配慮義務)。学校保健安全法26 条は、学校設置者の義務として、危険発生時に適切な対処ができるよう、学校の施設・設備・管理体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めることを求めています。これも、安全配慮義務のひとつの表われです。
安全配慮義務に反して生徒に損害が生じた場合、設置者は生徒の損害を賠償しなければなりません。安全配慮義務違反の有無は、設置者側で事故の発生をあらかじめ予見できたか(予見可能性)、また事故の発生を回避できたか(結果回避可能性)が検討されます。
◎違反の有無の判断はケースバイケースである
どのような場面で安全配慮義務違反が認められるか、裁判所の判断は事案ごとに異なります。
高校の生徒同士については、たとえば、柔道部の事故で未熟な者につき体力・技量・健康状態に応じた指導をすべき義務があるとした事例(東京高裁平成25 年7月3日)や、野球部の練習で打撃投手にヘッドギアを装着するよう指導すべき義務があるとした事例(福岡地裁小倉支部令和4年1月20 日)などがありますが、これも個々の事例ごとの判断です。
ただ、学校内における事故に関する大きな傾向としては、①在学生の年齢・発育段階、②事故発生の時間や場所、③教育そのものに起因する事故か生徒間の事故か、④教育内容の性質(危険性の高いものか否か)などの要素を考慮しているであろうと分析されます。
◎本問の検討
安全配慮義務違反は個別事情を踏まえて決されるため、一義的に結論を導くことは困難です。ただ、高校生であれば一定以上の発育があると評価されるでしょうし(①)、また昼休み中の生徒同士の事故であれば教員側の危険についての予見可能性も決して高くないように思われます(②・③)。あとは、たとえば同種事故が過去に発生していたか、事故現場が球技を禁止すべきような場所であったか、教員がこれに気付く契機があったか等を考慮して、最終的な責任発生の有無が決されていくものと想定されます。
この記事の内容は、『学校運営の法務Q&A』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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