「今、困っているのだけど、どうやって弁護士を選べばよいのですか?」
法的解決を必要としている市民の方々が、疑問に感じるテーマでしょう。私自身も、この質問を受ける機会が少なくありません。
そこで、今回は「もしも、私が依頼をする側であれば、こうします」という観点で、このテーマに関する私見をご紹介します。
なお、この話をする前提として、私自身の弁護士としての属性を簡単にお話した方がよいと思います。
私は、一般市民法務を中心に取り扱う弁護士です。民事事件・家事事件・刑事事件など個人の方を依頼者として紛争解決に当たるのと、中小企業や団体の顧問業務として法的サービスを提供するのと、バランスを取って仕事をしています。裁判業務を行う件数も、同業者の中では相当多い方であると自負しています。
私は、ジェネラリストとして伝統的な弁護士業の在り方を突き詰めていっており、そして、その土俵で高い法的サービスを提供したいと考え、日々の仕事をしています。
さて、本題です。
結論からお話しますと、弁護士を選ぶ際に何よりも大切にしていただきたいのは、「その弁護士の語る見通しや方針に納得できるのか」という点です。
弁護士は、ある相談を受けた時に、経験や知識などを元に、その相談のゴールを想定します。もちろん、初回相談の時点で証拠を全て見たり、相手の言い分を聞いたりしてはいませんので、その想定は暫定のもので、かつ幅を持ったものになります。しかしながら、そこで見通しを立てることができなければ、何も動けません。依頼者の方の側から見た時には、その弁護士がゴールを想定できていそうか、相談室を出た後次に何をすればよいか(どこに連絡をすればいいのか、何の書類を用意すればよいのか、あるいは諦めるべきかも含め)を明確に教えてくれるか、そのことを吟味していただくことになります。私が依頼者であれば、相談を終えて、結局何をすればいいのかが具体的に分からない弁護士には依頼をしません。
そして、当該見通しや方針に納得できるか、よく考えてください。弁護士と依頼者の関係で何より重要なのは信頼関係と言われます。そして、その基礎となるのは、同じ目標に向かって進めるかどうかです。弁護士が適切に見通しを語り、そこに納得できるのであれば、その弁護士は依頼をすべき有力な候補となるべきです。
ところで、弁護士から、不利な事実を確認されたり、不利な見通しを告げられたりすることもあるかもしれません。しかし、そのこと故に「納得できない」となるのはもったいないことです。むしろ、依頼者にとって耳障りの悪いことを正しく言える弁護士は、信頼できる人です。当たり前ですが、弁護士も普通の人間です。目の前にいる人、しかもその人が自分を頼ってきている相談者であれば、できるだけ気分を害することは言いたくありません。しかし、正しく方針を共有するためには、どうしても必要なプロセスだと考え、様々な観点からの話をします。私が依頼者であれば、自分でも心当たりがある弱点をきちんと指摘してくれる弁護士こそ、高く評価できる人だと感じます。
逆に、あまりに有利なことや断定的な見通しを語る弁護士は、眉唾です。大変残念なことではありますが、弁護士の中には、顧客誘引のために依頼者が飛びつきたくなるような言葉を話す方もいます。専門家に肯定されると思わず飛びつきたくなる気持ちも分かります。しかし、セールストークを真に受けてはいけません。過度に成果や経験をアピールする弁護士・弁護士事務所も同じです。
関連し、セカンドオピニオン、サードオピニオンを得ることも、私は大賛成です。
相談を受けていると、「先生の専門分野は何ですか?」と聞かれることがあります。
なるほど、依頼をする側からすれば、弁護士の専門分野が気になるのは良く分かることです。しかし、実は多くの案件は、専門の(=当該分野しか取り扱っていない)弁護士でなければ解決できないものではありません。
風邪を引いて熱や咳が出た時のことを想像してみてください。普通は、近くのお医者さんにかかると思います。いきなり、大学病院の専門医を探す人は稀でしょう。
弁護士選びも、これと近いものがあります。
法的解決が必要な状態になると、多くの方は、自分に起こったことが何か特別なことであるように感じます。特に紛争に巻き込まれることなど一生の中でも限られた場面になりますから、なおさらです。しかし、より大きな視点で見ると、実はほとんどの事象については、自分以外の他の誰かの経験や、解決例やルールがあります。もちろん、事案ごとに特殊性はあり、私たち弁護士はオーダーメイドで解決策を考えていくことにはなります。しかし、弁護士の立場で申し上げますと、本当にその分野の仕事しかしていない弁護士でなければ解決できない事例に出会うのはごく稀です。
ただ、弁護士には、取り扱っていない分野というのはあります。「裁判手続は扱いません」とか「刑事事件はやっていない」など、それぞれの弁護士ごとに手を離している分野があります。あるいは、弁護士も万能ではなく、会計士・税理士・司法書士など、他士業者の協力を得るべき場面もあります。ジェネラリストを標榜している私にも、当然、そういう領域があります。そのような相談が来た場合、私であれば、誰か別に適切な方を紹介するようにしています。この点に等身大であることは、自分にとっても、依頼者にとっても重要なことだと考えています。
以上をまとめるに、仮に私が依頼者であれば、その弁護士の「専門」を問うことはしません。それは、不当に選択を狭めます。問うのは、きちんと「取り扱う」能力があるかどうかです。「得意分野」と言えるかどうか、と言い換えることができるかもしれません。いずれにしても、その弁護士が当該分野を取り扱っているか、当該事件について解決を想定できているか、そのことを確認すべきです。そして、それは、弁護士の語る見通しや方針に納得できるのかを吟味するのと、全く同じ作業になります。
そして、最後に。
もう1つとても大切なのは、弁護士との相性です。同じ言葉を語られても、その人であれば納得できる/できない、ということが、人である以上当然にあるはずです。「解決」というのは、単に財産や利益を得たり、刑罰を免れたりするだけではありません。前を向いて進むための気持ちの決着も、とても大切な要素です。
その中で、私たち弁護士と依頼者の方は、しばし全人格的な接点を持つことになります。そのため、弁護士との間の人としての相性も、是非大切にしていただきたいポイントです。
以上私見となりますが、この投稿が弁護士選びの参考になれば幸いです。
是非、よい先生とめぐり合ってください。世の中には立派な弁護士がたくさんいます。その中で正しい弁護士選びがなされることは、社会で正しく法的解決なされていくことに資するものだと、私は考えています。