Q.幼稚園を運営していますが、近隣住民から、園庭で遊ぶ子どもの声がうるさいとの苦情が入るようになりました。園庭で自由に遊ぶことは子どもの発達のために大切ですし、実際のところ子どもを静かにさせることは容易ではありません。このような苦情にも対応する必要があるのでしょうか。
A.近隣の住民から苦情が寄せられている場合、これを真摯に受け止め、実際の騒音の大きさを確認した上で、可能な範囲の対策を講じる必要があります。
◎幼稚園等からの騒音
幼稚園や保育園、認定こども園では、子どもが活発に活動しています。その結果、周囲に住む住民から、音がうるさいとの苦情が入ることもあります。特に、保育園の増設が相次ぎ、住宅に隣接して建設されるようになった最近では、騒音問題が大きな紛争に発展するケースも見られるようになってきました。
◎騒音に関する法的紛争
幼稚園等の騒音問題は、近隣住民が騒音対策を法的に求める紛争に発展することもあります。
裁判所は、特定の施設からの騒音が違法と評価されるかについて、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、施設の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経緯および状況、その間にとられた被害の防止に関する措置の有無および内容、効果等の
諸般の事情を総合的に考察して、被害が「一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうか」によって決まるとしています。
◎騒音への対応
裁判所は騒音の大きさについて、環境基準や騒音防止法、自治体の条例の基準などを参照し、当該地域の環境騒音の程度、近隣住宅との距離や生活時間帯と騒音が大きくなる時間帯の関係などを勘案し、住民の被害が生活上の著しい支障となっているかを検討しています。
これらの点については、幼稚園等の側で対応できる事項も少なくありません。特に住宅街と近接し、住民から騒音について苦情が申し入れられている場合には、周囲への影響を軽減するための方策を検討する必要があります。園舎について二重サッシにするなどの防音対策を講じる、施設の周囲に遮音壁や植林を設置するなど物理的な対策を講じることもできます。また、できるだけ窓を閉める、園庭での活動は人数を制限し入れ替え制にする、大音量で音楽をかけることは避けるなど、保育活動上の工夫も考えられます。
◎住民との協議の重要性
学校法人側は、幼稚園等は公益性が高く、また子どもが自由に発声し遊ぶことは子どもの健全な発達のために重要であり、騒音については住民側が理解を示すべきだと考えてしまいがちです。しかし、裁判例において施設の公益性をどこまで勘案するかはまちまちです。園児
を持たない近隣住民は施設の恩恵を享受しておらず、公益性を重視することはできないとした裁判例もあります。
施設の新設の際には、地域の特性に応じて住民説明会を開催し、住民の理解を得られるよう努力し、住民の懸念点を可能な範囲で施設の設計に反映することが大切です。騒音について要望や苦情が寄せられた場合は、対応を真摯に検討し、可能な対策を行うと同時に、取られた対策を記録し、また住民に説明する努力が求められます。
この記事の内容は、『学校運営の法務Q&A』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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