(1)はじめに
2003年(平成15年)に施行された改正商法で委員会等設置会社が導入され、現在は指名委員会等設置会社という名称に変更して引き継がれています。指名委員会等設置会社は、特に海外から、理解しやすいガバナンス体制と言われていますが、日本の伝統的な監査役会設置会社との関係で、監査という点はどうなるのかに着目し、検討したいと思います。
(2)指名委員会等設置会社の特徴
まず、指名委員会等設置会社の取締役会、監査委員会の特徴としては、
1 監督と執行の分離をし、取締役会は執行役等の職務執行を監督すること(会社法416条1項2号)。なお、取締役は、別段の定めがある場合を除き、業務を執行することはできないが(会社法415条)、執行役は取締役を兼ねることもできる(会社法402条6項)
2 監査機能を取締役会の一委員会である監査委員会が担うこと、会計監査人の設置は必須であること(会社法404条2項)
3 取締役会の中の委員会である指名委員会、報酬委員会が法律上の機関として、取締役の選任議案の決定、取締役・執行役の報酬の決定をすること(会社法404条1項、3項)
4 取締役会は大会社でなくとも内部統制システムの構築義務があること(会社法416条1項1号ホ)
などが挙げられると思います。
指名委員会等設置会社においては、監査委員会が取締役会の内部組織として位置づけられており、3つの委員会(指名・報酬・監査)が互いに連携することが監査機能の強化につながるという考えから、委員会のうち1つの委員会だけを設置することなどはできません。また、監査委員会は監査報告書の作成義務を負いますが(会社法404条2項1号)、執行役や使用人、子会社等への報告の聴取や業務財産の調査は監査委員会が選定した監査委員に認められます(会社法405条1項・2項)。ただし、執行役等の違法行為等についての取締役会への報告(会社法406条)や、差止請求(会社法407条)など、緊急性が高いものについては各監査委員に権限が認められています。
(3)監査役会設置会社の監査の特徴
これに対して、監査役会設置会社(大会社+公開会社を前提)においては、
- 取締役会が経営に関する最高の意思決定機関(重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任、支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止、内部統制システムの構築を決定)(会社法362条4項各号)
- 監査役は3名以上必要で(会社法335条3項)、かつ常勤の監査役が最低1名必要(会社法390条3項)
- 社外監査役が監査役の数の半数以上必要(会社法335条3項)
- 会計監査人の設置(大会社)(会社法328条1項)
- 監査役が、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人または当該子会社の会計参与若しくは執行役ではないこと(会社法335条2項)
などが挙げられます。監査役会設置会社においては、監査役は万能、つまり単独で権限を行使することができ(独任制、会社法390条2項)、監査役自身が自らの会社の業務・財産の調査等を行うという方法(いわゆる実査)で監査を行うことが想定されています(会社法381条)。
(4)指名委員会等設置会社の監査委員会の特徴
指名委員会等設置会社の監査委員会の特徴を細かく見ていきましょう。
指名委員会等設置会社の監査委員会の構成は、
- 指名委員会等設置会社の監査委員会の委員は、過半数が社外取締役であること(会社法400条3項)
- 委員全員が会社の執行役、使用人若しくは会計参与、又は子会社の業務執行取締役、執行役、使用人若しくは会計参与でないこと(会社法400条4項)
が要求されています。
監査委員会においては、執行役兼任の取締役は委員となることができず、過半数を社外取締役とする必要があることから、取締役のメンバー構成との関係で、実際には社外取締役のみが監査委員会を構成することが考えられます。
そのため、会社法は、指名委員会等設置会社について、下記のような対策を規定しています。
- 会社規模にかかわらず、会計監査人を置くことが必須とされている(会社法327条5項)
- 監査委員会を補助すべき者として使用人を設置できる(会社法416条1項1号ロ、施行規則112条1項1号)
- 監査委員会を補助すべき者として取締役を設置できる(会社法416条1項1号ロ、施行規則112条1項1号)
- 大会社でなくても内部統制システムの構築義務が課されている(会社法416条1項1号ホ、同2項)
監査委員を補助すべき取締役は、実務では設置されていないことが多いです。補助すべき者が取締役であったとしても、補助をすることができるにすぎず、権限がない以上、宙ぶらりんになってしまうからかもしれません。
その代わり、2003年(平成15年)の委員会等設置会社(現:指名委員会等設置会社)の導入後、監査役会設置会社の常勤監査役のように(390条3項参照)、会社法上は要求されていない常勤監査委員を設置している会社も多いです。
この点、2015年(平成27年)5月施行の改正会社法で監査等委員会設置会社が導入されたことに伴い、日本の会社において常勤の監査委員(監査等委員会では監査等委員)の存在が担っている重要な役割について改めて議論・認識され、監査等委員会設置会社においても、指名委員会等設置会社においても、常勤監査委員(監査等委員)の設置について、事業報告書において、その選定の有無及びその理由の記載が求められています(会社法施行規則121条10号イ・ロ)。
以上のような会社法や施行規則の対応から考えられることは、指名委員会等設置会社の監査として、
1 会計監査の手当 → 会計監査人を必須の機関とする
2 業務監査の手当 → 大会社でなくとも内部統制システムの構築を義務付け、組織監査を行える前提を義務付ける
3 妥当性監査の手当 → 取締役の指名、取締役・執行役の報酬の決定をすることを、過半数が社外取締役で構成される指名委員会・報酬委員会に委ねる
4 取締役会全体が、執行役の執行の監督をする
5 必要な場合には、常勤の監査委員の設置も検討する
というトータルな監督・監査が求められていると思います。
(5)指名委員会等設置会社における業務監査の「背骨」
指名委員会等設置会社では、特に、社外取締役のみによって監査委員会が構成される場合には、内部統制システムに依拠する監査、具体的には内部監査室などによる組織監査がしっかり行われ、当該結果が監査委員会や取締役会にしっかり報告されていくことが前提となっていることになります。
大会社かつ公開会社である監査役会設置会社では、常勤の監査役、非常勤の監査役による実査が行われ、かつ内部統制システムがあります。このような会社における業務監査としては、いわば、監査役による実査が「背骨」、内部統制システムによる内部監査等が「肋骨」のような役割を担っていると思います。これに対して、指名委員会等設置会社では、内部統制システムによる内部監査こそが、監査の「背骨」であり、監査委員会は必要に応じて内部統制システムを担う内部監査室などに具体的指示を行う形になっています。
確かに、指名委員会等設置会社においては、法律上の権限として、社外取締役が半数以上で構成された指名委員会が、究極的には取締役兼代表執行役である社長を次期取締役候補として選任しないこと、つまり社長の首をすげ替えることもできます。このように、社外取締役による人事権が与えられているという点においては、強力なガバナンスが効いているとは言えます。
しかし、上述のように、指名委員会等設置会社においては、監査役会設置会社と異なり、監査委員による実査が前提とされていない、ないし実査が難しいことを十分に理解する必要があります。そして、指名委員会等設置会社においては、監査の「背骨」とも言える自社の内部統制システムの構築を、常にブラッシュアップし、改善していく、たゆまぬ努力がより一層必要になってくると思われます。
以上
*本原稿は、筆者が所属する組織の見解ではなく、筆者の個人的見解となります。