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村方善幸

東京都の太陽光パネル設置義務と受光利益について

東京都では、2024年4月からハウスメーカー等の住宅供給事業者に太陽光パネルの設置を義務付ける条例が施行される予定です。
このような太陽光パネル設置の義務化は、ドイツやカリフォルニアで導入されているようですが、おそらく日本では初めてのことで地方公共団体として大きな政策的決断だと思います。
施主にとっては補助金も出るようですので、経済的メリットが大きいことはもちろん、災害時の非常電源にも利用できることから、社会全体として大きなメリットがある制度であり、再生可能エネルギー業界に携わる者として非常に好意的に見ています。

ただ、弁護士としてみると細かなトラブルの可能性がどうしても気になってしまいます。
例えば、一軒家に設置した後に、近隣に大きなマンションなり建物ができ、日照条件が著しく悪くなった場合にどうするのだろう、という点です。
実際には補助金を考慮に入れると6年ほどで原価を回収可能なようですので、日照条件の悪化を考慮しても原価を回収できないという事態はほとんど考えられず、問題になる場面は考えにくいと思われますが、かといってあり得ない話でもありません。
そのため、一人でもそういった方が生じた場合に、その損害をどう補償するのか、という視点は弁護士としてどうしても考えてしまいます。
東京都なのか、それとも近隣にマンションを建てた建設業者なのか。

私が知る限り、これまで太陽光発電の設置に伴う日照権が正面から認められた最高裁判例はありません(間違っていたら申し訳ありません)。しかし、平成30年11月15日に福岡地裁で言い渡された判決で注目すべき判断が出されています。

この裁判は、住宅地において太陽光発電設備を設置した原告が、その隣地に被告が建物を建築したことにより発電量が大きく減少したと主張して、損害の賠償を求めたものです。
最終的に原告の請求は棄却されたのですが、この判決において裁判官は、太陽光発電のために太陽光を受光する利益(以下「受光利益」)は法律上保護に値する利益に当たると解したうえで、「受光利益を侵害する行為が違法であるとされるのは,法令による規制に違反する建築物によるとか,発電量を著しく減少させるなど,その侵害の程度が強度といえるような場合に限られる」と限定的とはいえ、損害賠償の可能性を認めました。

この判決の評価は今後にゆだねられるものですが、太陽光発電設備の設置が経済活動として行われてきたことを前提にすると、住宅とはいえ受光利益を認めたことには大きな意味があると思われます。
そして、東京都では太陽光発電パネルの設置が、ハウスメーカーに対してとはいえ義務付けられており、最終的な費用負担者は施主となることから、より受光利益の権利性を基礎づける事情が積みあがったと評価できます。

つまり、今後の政策的な動きによっては、太陽光発電のために太陽光を受光する利益の権利性を正面から認められる時代が来るかもしれません。

村方善幸

「勝負に勝って試合に負ける」ということがないよう視野を広く持ちながら考えていくことを心がけています。 法務は当然のことながら,専門で区切らず様々な相談に対応できるような存在として頼っていただけるよう研鑽しております。