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川上資人

弁護士としての原点 ‐公正な取引の実現のために①‐

今年の2月、私の父が亡くなった。
私の父は、商社に勤めたのち、自身で小さな会社を始めた。
会社を始めて何年か経った頃、取引先から基本契約の改訂を求められて困っていると話していた。なんでも、一方的に不平等な契約変更を求める内容で、応じなければ取引を打ち切ると言われている、ということだった。
この時、私は司法試験の勉強のために法科大学院に通っている頃であり、もし自分が弁護士であればと歯がゆい思いだった。
幸い、父は大学の同期の弁護士に相談し、この問題は良い方向で解決したと聞いた。

その後、弁護士となり、小さな者が大きな組織から理不尽を強いられるときに、その小さな側に立って力になれる存在となりたいと思ってきた。
2019年4月、ウーバーイーツで働く配達員の方たちが、配達した距離に対して報酬が正しく払われていない、会社に言っても「誤差の範囲」と言って対応してくれないとSNSに投稿していた。
見かねて、「労働組合を作ってみませんか。法律相談料はいりません」とツイッターに書いたところ、配達員の方たちが集まり、日本初のギグワーカーによる労働組合「ウーバーイーツユニオン」が結成された。
ウーバーとの交渉力格差を是正し、少しでも働く環境をよくするために、団体交渉を申し入れたが、ウーバーは現在まで団交に応じていない。
ウーバーイーツユニオンは、ウーバーの団交拒否に対して東京都労働委員会に不当労働行為救済申立てをしており、今月、救済命令が下される。
ウーバーは、配達員は個人事業主なので労働組合法上の労働者に当たらないと主張している。しかし、個人事業主でも労働組合が作れることはよく知られており、例えばプロ野球選手会は個人事業主で作る労働組合として経営側と積極的に団体交渉を行っている。
労働組合法上の労働者とは、①事業組織への組入れ、②契約の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性が認められる者とされている。
ウーバーイーツの配達員の方は、フードデリバリーサービスという事業組織へ組み入れられ、契約は一方的・定型的に決定され、報酬は配達という労務の対価として支払われており、労組法上の労働者性は明らかである。
今月下される命令は、ウーバーに対して団交に応じることを命じるものになるだろう。

プラットフォーム企業とギグワーカーなど、交渉力格差の認められる取引関係は不平等なものになることが多い。
その格差を埋め、公正な契約関係を実現するための法律として、労働法、独占禁止法などがある。
ウーバーイーツユニオンの取組みは、労働法を用いてウーバーとの交渉力格差を是正しようとするものである。
そのウーバーイーツユニオン結成のニュースを見て、楽天に出店する方たちが相談に来られ、「楽天ユニオン」を結成した。
楽天ユニオンは、独占禁止法を用いて楽天との交渉力格差の是正を目指している。

次回は、独占禁止法による公正な取引実現の試みについて話をしたいと思う。

川上資人

パートナー弁護士。2002年早稲田大学卒。大学卒業後、青年海外協力隊員としてアフリカに赴任し、ニジェール共和国で農業協同組合の設立支援などに携わる。その後、あしなが育英会での勤務を経て、2015年に弁護士登録(68期)。2019年6月から当事務所に参画。