Q.ハラスメントには、どのような種類があるのでしょうか。
A.パワハラ、セクハラ、マタハラなどの典型的な類型のほか、アカハラや就活ハラスメントなど学校において生じうる特有の類型も挙げられます。
◎ハラスメントとは
ハラスメント(harassment)とは、「嫌がらせ」「悩ませること」などを意味する英単語であり、その行為によって被害者の人格権を侵害する行為類型を指す用語です。実は、「ハラスメント」としての統一的な定義はなく、ハラスメントとされる行為類型ごとに整理がなされています。
本項では、学校で生じうる代表的なハラスメント行為類型を挙げて説明していきます。
※なお、本項では以下のとおり略語を用います。
・ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律→【男女雇用機会均等法】
・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律→【育介休法】
◎パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラについて、厚生労働省は、以下のすべての要素を満たすものを指すと定義しています(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号))。
① 職場において行われる言動
② 優越的な関係を背景とした言動
③ 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
④ ①~③により労働者の就業環境が害されるもの
就業規則等により、上記と異なる定義を定めている学校においては、当該就業規則等の定めに従ってハラスメントの判断をすることになりますので、ハラスメント該当性を検討する場合は、まず学校の就業規則等をご確認ください。
また、パワハラの代表的な言動の類型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過少な要求、個の侵害の6類型が挙げられます。
学校においては、典型的には職員室における教員間のパワハラが想起されるところです が、それ以外にも教員と学生間、学生間(先輩後輩関係など)でも生じうるところです。
◎セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクハラは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動の類型であり、男女雇用機会均等法では、職場において行われる①性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシュアルハラスメント)、②当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシュアルハラスメント)と定義されています(同法11 条1項)。
男性から女性への行為について取り上げられることが多いですが、女性から男性への行為はもちろんのこと、同性間であってもセクハラと評価されます。
◎マタニティハラスメント(マタハラ)
マタハラは、男女雇用機会均等法と育介休法に定めがあります。
男女雇用機会均等法では、女性労働者に対し、出産・育児などにより就労状況が変化したことなどに対し、嫌がらせをする行為(状態への嫌がらせ型)と出産・育児に伴う諸制度の利用を妨げるような行為(制度等への嫌がらせ型)が定められています。
育介休法では、性別を問わず、育介休法上の諸制度の利用を妨げるような行為(制度等への嫌がらせ型)が定められています。
◎アカデミックハラスメント(アカハラ)
アカハラは、法律上の定義はないハラスメントの類型です。
一般的には、特に大学や研究機関において、教育・研究上の優越的な立場を利用して行われる、パワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメント行為を総称した用語として、用いられています。
◎カスタマーハラスメント(カスハラ)
一般にカスハラは、顧客などからのクレーム・言動のうち、当該クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであって、当該手段・様態により、労働者の就業環境が害されるものとされています。
なお、2025 年4 月1 日から東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行されます。同条例では、都内で業務に従事する者(就業者)と就業者から商品又はサービスの提供を受ける者(顧客等)との関係において、「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」をカスハラと定義しています(同条例第2 条第5 号)。
学校においては、顧客(カスタマー)という名称にはそぐわない部分があるかもしれません。しかし、顧客を保護者に置き換えることで、保護者の不当な要求によって、教員の就業環境が害される状況をカスハラと捉えることができます。
また、文部科学省では要求行為に着目して、「保護者等からの過剰な苦情や不当な要求」として、整理されています。
◎ジェンダーハラスメント
ジェンダー(gender)とは、社会的・文化的に割り当てられた性差のことを意味する英単語です。ジェンダーハラスメントは「男(女)のくせに~」など、固定的な性差概念(ジェンダー)にもとづいた差別や嫌がらせを指します。
学校においては、特に生徒指導の場面で気を付ける必要があります。「“男なら”泣くな」など、性別を理由とした指導がジェンダーハラスメントに該当しうる行為になります。
◎就活ハラスメント
就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するパワハラやセクハラのことを言います。法律上直接の規定はありませんが、事業主に対し、就職活動中の学生等の求職者に対するパワハラ及びセクハラの防止措置に取り組むよう求められています(パワハラについて労働施策総合推進法30 条の2第3項に基づく指針、セクハラについて男女雇用機会均等法11 条第2項に基づく指針)。
大学等においては、令和2年3月26 日付文部科学省総合教育政策局・男女共同参画共生社会学習・安全課連名事務連絡別紙「学内におけるハラスメントの防止等について」により、就活ハラスメントについて企業や学生に向けた周知のほか、被害を受けた就活生への支援について求められているところです。
◎その他のハラスメント
以上で挙げたハラスメントのほかにも、リモハラ(リモートワーク・授業などで生じるパワハラ等)、SOGI ハラ(性的指向や性自認に関連した嫌がらせなど)など、様々なものがあります。
この記事の内容は、『学校運営の法務Q&a』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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