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久道瑛未

部活改革で生徒とコーチが対立?学校が知っておくべき“期待権”と裁量権【学校運営の法務Q&Aより】

Q.少子化による財政危機への対応として、部活を強化して生徒を集めようと考えました。有名なコーチを採用しましたが、従前の部員とのスタンスの差により、軋轢が生じています。双方から、期待権の侵害を主張されていますが、学校として補償が必要になること
はありますか。
A.実際に学校側から何かしらの補償が必要になるケースはほとんどないと思われます。ただし、部活動の運営方針を変えることは、従来からの部員、新たな方針の元で採用した外部指導者から不満が生じるリスクを伴います。学校が適切な事前調整を行い、双方の意見を尊重する姿勢を示すことが重要です。

◎想定される双方の主張

生徒を集めるための戦略として部活動の強化を図ることは、財政上の戦略として有効です。一方で、既存の部活動における方針転換である場合、従来から在籍している生徒たちは、従前どおりの指導方針や活動内容が続くと潜在的に期待していることが多いと考えられます。
よって、指導方針や活動内容が突然変更されると、従前の期待やそれまでの積み重ねを侵害されたと感じる可能性があります。それに対して、部活動強化のために新たに採用された外部指導者は、自分の指導方針を実行する前提で指導を引き受けており、想定していた指導方針が実現できない場合には期待が侵害されたと感じる可能性があります。

◎期待権侵害とは

しかし、上記のような場合に、双方の期待に法的な補償が要求され、実際に認められるケースはほとんどないといえます。それは、学校教育法上、学校長には、教育課程を編成し執行する権限やクラブ活動における具体的活動に対して権限を有するとされているからです。教育内容の決定や部活動の運営等について、学校側に広く裁量があるからです。
ある私立学校で特徴的なカリキュラムを実施していることを学校案内や学校説明会などで宣伝していたのにもかかわらず、入学後、当該カリキュラムが変更されたという事案において、期待権の侵害が争点となった判例があります(最高裁第一小法廷平成21年12月10日)。
この判例では、学校説明会等で宣伝された教育内容の変更により学校に不法行為責任が生じるのは、私立学校に教育内容についての裁量があることを考慮してもなお社会通念上是認することができない場合に限られるとされ、当該事案においては期待権侵害による不法行為責任は否定されました。
また、ラグビーの伝統高校が、ラグビー部内での不祥事を理由として1年間の公式戦辞退をしたことについて、部員らが損害賠償を請求したという事件では、上記学校長の権限を前提にしてもなお、学校長の当該決定が社会通念上合理性を欠く場合に違法となるという基準が
示されました。そして、当該事案における学校長の決定は社会的合理性を欠くものとはいえないと判断され、損害賠償請求は認められませんでした(東京地裁平成14年1月28日)。

◎学校側の留意点

以上のとおり、学校側の部活動の運営方針の裁量は広いため、本件のような場合でも法的リスク自体はそこまで高くありません。しかし、生徒または保護者・学校間、指導者・学校間で生じるトラブルを避けるためにも、双方の理解を得るために、従前から所属する生徒側への丁寧な説明を行い、当該生徒たちが卒業するまでは従前の生徒たちの活動を尊重する、指導者に対しても採用前に従前の生徒たちへの配慮を行うよう求めるなどの調整を事前に行うことが望ましいといえます。

この記事の内容は、『学校運営の法務Q&A』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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久道瑛未

世の中の理不尽を無くし、一人ひとりが尊重される社会づくりに貢献したいと考えて弁護士を志しました。人と向き合い、その人の痛みや喜びを最大限分かち合えるような人間でありたいと思っています。行政事件、民事事件、企業法務をはじめとしたあらゆる分野で依頼者の方々と思いを共有しながら取り組みます。