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東谷惇矢

弁護士による再開発の補償金の交渉について

公共事業の実施にあたり、国や地方公共団体、これらに準じる公権力により土地や建物が強制的に取得されることがあります。法は、これにより地権者等に発生する損失の補償を義務付けています(憲法29条3項・土地収用法68条以下等)。

 

市街地再開発事業においても、公益目的の実現のために施行区域内の地権者(土地所有者、借地人)や借家人が被った損失の補償について、都市再開発法91条と97条が義務づけています。本コラムではこのうち97条補償を中心に述べたいと思います。(なお、以下の記述は、事業用物件を対象とし、居住用物件を対象としていませんのでご留意ください。)

 

・91条補償

権利変換を希望せずに転出を希望する地権者に対し、その有する権利の対価として支払われるもの

・97条補償

再開発の施行による明渡しを余儀なくされたことにより、地権者や借家人が通常受ける損失に対して支払われるもの

 

地権者や借家人は、多くの場合、組合から委任を受けた補償コンサルと呼ばれる人々と交渉をして、損失補償金契約を締結し補償金の支払いを受けることとなりますが、この交渉がなかなか大変です。というのも、この補償金をめぐる計算式が極めて難解だからです。

補償金の計算は全国用地対策連絡協議会基準(以下「用対連基準」といいます。)に基づいて支払われています。しかし、この用対連基準なるものは普通の人には身近ではなく、さらに理解しようと思っても相当にややこしい基準になっています。他方で、交渉相手となるのは、用対連基準を熟知している補償コンサルです。ややこしい基準にもとづき、これを熟知したプロと時間的制限がある中で交渉する…これは、なかなか骨の折れることです。そのためか、地権者や借家人の方の中には、組合の提示する補償金額を増額交渉することなくそのまま受け入れて、損失補償金契約の締結をされる方がおられます。

しかし、提示額をそのまま同意してしまった場合、後から同意を覆して増額交渉をすることはほぼ不可能です。

いくら公益目的のために必要であるとはいえ、先祖伝来の土地や長く住み慣れた土地から離れなければならないわけですから、法に従った適切な補償を受ける権利は守られるべきです。きちんと納得できる補償金を得るためには、組合から補償金額が提示された段階で交渉をすることが極めて重要です。

 

―ではどうすれば組合と交渉して補償金を増額することができるのでしょうか。

 

手前味噌ですが、こういったときにこそ弁護士にご相談をいただければと思っています。

 

弁護士は、組合の提示してきた補償金額について、支払われるべきであるのに支払われていない項目を発見・指摘し、用対連基準を駆使して、組合と増額交渉をします。さらに、弁護士は、明渡し時期、区域内の明渡しの進捗状況および組合側の内部事情等をも交渉材料にして、地権者や借家人に支払われるべき最大額の補償金が支払われるよう組合と交渉をします。

このように、弁護士は、組合と地権者・借家人との間に存在する交渉力の差をなくし、組合と対等な関係で交渉を進める事ができるのです。

 

実は、組合は弁護士との増額の交渉を歓迎することが多いのです。組合には地権者や借家人の納得のもと、計画通りに事業を進行する必要があります。仮に、地権者や借家人との補償金交渉が決裂した場合、その後の明渡しが計画通りに進まなくなり、紛争リスクが生じてしまいます。これによる組合の経済的損失は計り知れません。組合は、専門家たる弁護士と交渉し補償金を増額してでも、地権者や借家人の納得を得て、期限通り(もしくはそれに近い時期)に明渡して欲しいのです。

組合の提示してきた補償金額について、疑問がある地権者や借家人のかた、ひとまずは弁護士に相談することをおすすめします。

 

東谷惇矢

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