W杯が盛り上がっていますね。そんな中、全試合を配信している動画配信サービス「DAZN」が提供した期間限定プラン「DAZN Soccer」を巡る料金表示トラブルが世間を賑わせました。「月額980円」という安さを大々的にアピールしながら、実際には「4カ月目から2600円になる1年間の契約縛り(途中解約不可)」があり、最低でも総額2万6340円の支払い義務が生じるという仕組みでした。
最終的に運営会社が謝罪・返金対応に追い込まれましたが、何も今回新たに生じた課題ではありません。ここでは、「DAZN」をはじめとするサブスクリプション(定額制・継続的)契約の消費者問題について考えてみたいと思います。
1. 現行法における問題点と限界
このトラブルに対し、現行法では主に以下の2点が問題視されました。
- 景品表示法(有利誤認表示): デメリットである「年間縛り」を小さな文字で隠し、お得な「980円」だけを強調する行為。
- 消費者契約法(不利益事実の不告知): 契約を結ばせるために、消費者に不利益となる重要な事実をあえて告げない行為。
これらに基づき、個別の契約取り消しや返金は法的に主張可能でしたが、あくまで「事後的な救済」が中心でした。
2. サブスクをはじめとする継続的契約への対応
こうした「入りやすく、やめにくい」「条件がわかりにくい」というサブスクの罠(ダークパターン)の急増を受け、消費者庁の「消費者契約法検討会ワーキンググループ」は、令和8年(2026年)4月27日に劇的な「論点整理(案)」を公表しました。
この中で、サブスクをはじめとする「継続的な契約」の普及に対応するため、全く新しい一般的な規律を導入する方針が示されたのです。その核心となるのが、以下の3つのポイントです。
① 「解約妨害」の禁止と合理的な離脱
事業者は、消費者が合理的に契約から離脱できる状態を確保し、健全な商慣習に照らし不当に解約を妨げる行為や環境設計(解約妨害)をしてはならない。
「契約はスマホを1タップでできたのに、解約は電話のみ、あるいはサイトの深い階層に隠されていて見つからない」といった、意図的に解約を難しくするデザイン(環境設計)を「解約妨害」として明文で禁止する方向性が示されました。さらに、「契約締結時と同じ方法(またはそれを含む複数の方法)」での解約手段を提供することが、合理的な離脱の目安として挙げられています。
② 更新時・変更時の「事前通知」の義務化
契約期間の更新時や、重要事項の変更時に、消費者が不利益なく離脱できる機会を確保するため、事前の通知を(努力)義務付ける。
DAZNのケースのように「数ヶ月後に自動的に値上がりする」ようなプランや、契約内容の変更時には、事業者が事前に「更新後の期間や、解約料の有無」をきっちり通知させようというルールです。
③ 「適格消費者団体」による差止請求の導入
さらに強力なのが、これらの「解約妨害の禁止」や「契約変更時の通知義務違反」に対して、適格消費者団体が事業者へ「禁止行為の差止め」を請求できるようにするという点です。これが実現すれば、不誠実なサブスクプランや解約しにくい画面設計を見つけた段階で、団体が法的にストップをかけ、被害を未然に防ぐことが可能になります。
3. 今後に向けて
今回の論点整理は、これまで「情報格差の是正」が中心だったものを、「デジタル社会において、誰もが判断を誤る脆弱性を持っている」という前提(消費者の多様な脆弱性への配慮)に立ったルール作りが進んでいます。
そうすると、今後は「規約の隅っこに小さく書いてあるから、法的にはセーフ」という言い訳は通用しにくくなるでしょう。WebサイトやアプリのUI(画面設計)を担当する部署と法務部が緊密に連携し、「消費者に誤認させない、解約しやすい誠実な設計」をすることが、最大のコンプライアンスであり、炎上と法的リスクを防ぐ最善の策といえそうです。