Q.本校では、髪染めやパーマを禁止しています。地毛が金髪の外国にルーツを持つ学生に対し、黒く染めるよう求めることは出来るでしょうか。地毛証明書に保護者の署名押印をさせることはどうでしょうか。
A.生まれ持った髪の色を変えるように求めることは、人権侵害にあたります。地毛証明書も、差別的でプライバシーの観点からも問題があります。
◎外国にルーツを持つ児童・生徒の髪の毛とアイデンティティ
現在、日本の学校には、国籍を問わず、多数の外国にルーツを持つ児童・生徒が在籍しています。2023年末の時点で日本に在留する外国人は341万人を超えて過去最多となりましたし、2022年に日本で生まれた子どもの24人に1人は、少なくとも両親の一方が外国籍です。このことからしても、今後、外国にルーツを持つ児童・生徒が増え続けることが予想されます。
髪の毛を含む自分の生まれ持った容姿・身体的特徴は、特に外国にルーツを持つ児童・生徒にとっては、自分のアイデンティティに直結するものです。自分の髪の毛を否定されたり軽視されたと感じた場合、自分のルーツ自体を否定されたり軽視されたと感じる可能性がありますし、ひいては、児童・生徒自身が自分のルーツを否定したり軽視したりすることにつながる可能性もあります。そのようになってしまった場合、児童・生徒がアイデンティティ・クライシス(自分が何者であるかわからなくなること、自己喪失)に陥ったり、自分が外国にルーツを持つことを親の責任と感じて、親との関係が悪化したりすることにつながる可能性もあります。
また、髪型が文化の承継としての意味を持つこともあります。身体的特徴としての側面も文化的承継としての側面も、児童・生徒が自分自身を誇りに思えるようになるために重要なものですので、どちらの側面からも尊重されるべきです。
髪の毛についての指導は、児童・生徒がありのままの自分を自信を持って受け入れられるかということに直結し、アイデンティティの形成や周囲との関係形成などに影響を及ぼし得るということを意識して指導をしてください。
◎黒髪・直毛にすることを求める指導や地毛証明書の問題点
東京弁護士会では、2023年に「外国にルーツを持つ子供たちの学校における髪型にまつわる経験についてのアンケート」を行いました。
その結果からは、多くの学校で黒髪・直毛を前提とした指導が行われているという実態が明らかになりました。また、染色や縮毛矯正によって黒髪・直毛に近づけているという回答の中に、その理由を「校則違反になってしまうから」、「学校側からの指導があったから」とするものがあり、学校側から染色や縮毛矯正によって黒髪・直毛にすることを事実上強制されているケースもあることもわかりました。
学校側が染色や縮毛矯正をするように指導することは、生まれ持った容姿・身体的特徴を否定して個人の尊厳を深く傷つけるものです。児童・生徒の人権を侵害しますので、学校が行うことは不適切です。
また、地毛証明書は、黒髪・直毛が「当然」あるいは「正しい」ということを前提として、黒髪・直毛以外の場合にそれを申告・証明させるというものです。黒髪・直毛以外は「良くない」「正しくない」というメッセージを暗に発しますので、差別的であり、学校が行うには不適切です。さらに、個人の生まれ持った容姿・身体的特徴を申告・証明させるという点において、プライバシーの観点からも不適切です。
◎多様性を前提とした指導を
前述の東京弁護士会のアンケートでは、設問のように黒髪・直毛にすることを強制する指導が行われている学校がある一方で、染色や縮毛強制が一律に禁止されている学校もあることがわかりました。そのような学校において黒髪・直毛を前提とした指導を一律に適用することは、黒髪・直毛でない児童・生徒に著しい負担を負わせることになりかねません。
たとえば、肩につく長さを超えた場合には1つに結ばなければならないと決められていても、アフリカ系によく見られるような強いウェーブの髪の場合、1つに結ぶことが物理的に不可能であったり、非常に困難であったりします。無理矢理1つに結ぶために強く引っ張り続けたため、牽引性脱毛症になってしまうこともあります。
黒髪・直毛以外の児童・生徒もいることを前提に、個々人の生まれ持った髪の毛を尊重した指導が求められます。
◎児童・生徒が黒髪・直毛を希望する場合
学校側が染色・縮毛矯正をさせるよう指導することが不適切であることは前述しましたが、一方で、黒髪・直毛以外の児童・生徒自身が黒髪・直毛に近づけたいという希望をもっている場合には、それは尊重すべきです。周囲のほとんどが黒髪・直毛である中、学校が黒色への染色・縮毛矯正を禁止して周囲と異なる状態であることを強制することは、児童・生徒に不必要な苦痛を与えかねないためです。
生まれ持った髪の状態でいたいのか、それとも黒髪・直毛に近づけたいのか。これは、自己のアイデンティティに対する認識と密接に関係し、時間とともに変容し得るものでもあります。児童・生徒の成長の過程に寄り添った指導が求められます。
◎周囲の児童・生徒との関係
黒髪・直毛以外であるために不利益や負担を与えるような指導は、周囲の児童・生徒に対しても、黒髪・直毛以外は良くない・正しくないというメッセージを発します。差別や偏見の助長やいじめの原因にもなり得ますので、注意が必要です。
一方で生まれ持った髪に合わせた指導を行う場合、黒髪・直毛でない児童・生徒だけ特別扱いとなるのではないか、周りの児童・生徒から不満が出るのではないかという懸念をお持ちになるかもしれません。
しかし、実際に存在する差異を無視して同じ扱いをすることが平等ではありません。差異を考慮した取り扱いをすることが、平等な結果をもたらし得ます。また、学校がそのように個人を尊重する姿勢を見せることで、周囲の児童・生徒も多様性を尊重できるようになっていくのではないでしょうか。
そのため、アフリカ系の人の髪の毛は、三つ編みや編み込み、もしくは細かい束にするような髪型にしない限り、大きく膨らみ、互いに絡まります。また、乾燥しやすく、切れやすくもありますので、整髪料をつけないで梳かすと髪の毛が切れてしまいますし、自分だけできちんと梳かすことは容易でなく、きちんと梳かすことができていないと内側で絡まってしまいます。
アフリカ系の人たちの間で伝統的によく見られるコーンロウと呼ばれる細かい編み込みやブレイズと呼ばれる細か1qい三つ編みは、髪の毛自体を守る効果があり、プロテクティブ・ヘアスタイルと呼ばれています。このような髪型にした場合、日常的にはそのままの状態で洗髪をし、数週間に一度くらいの間隔で編み直しますので、毎日の手入れも楽になります。
この記事の内容は、『学校運営の法務Q&A』(旬報社)をもとにお届けしました。教育現場のトラブル回避や法的対応をサポートする信頼の一冊。全国の書店やオンラインストアでお求めいただけます!
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