改正意匠法が施行
2020年4月1日、改正意匠法が施行されました。意匠法は、デザインの創作を保護するための法律です。特許庁に出願・登録しておくと、意匠権を侵害したり、侵害のおそれがある者に対して、それらの停止や予防、損害賠償などを求めることができるようになります。
意匠権は、従来は動産である「物品」のみを対象としていましたが、改正意匠法では不動産である「建築物」も対象とするようになりました。特許庁によると2020年7月13日時点で意匠登録出願数は133件に及びます。
デザインの自由に対する制限
こうした創作者の権利保護は、同時にデザインの自由に対する制限という側面も持つことに注意が必要です。同じく知的財産権を保護する著作権法は、昔から建築物を保護の対象としてきましたが、著作権が発生するのは、いわゆる芸術建築に限定されると考えられていたことやその判断基準が不明確であったこともあり、今まであまり問題になりませんでした。
今後、建築物に広く意匠権が設定されるようになると、同一のデザインだけではなく、類似のデザインに対しても、その使用の停止等が認められるようになりますので、設計に携わる建築家などに対する過度な委縮効果が生じないかが懸念されるところです。
意匠登録の要件・疑問
意匠登録がなされるためには、工業上の利用可能性が必要です(意匠法3条1項ただし書)。これは工業的な生産方法により同一の外形を有する物品を反復継続して大量に生産できることを意味しますが、実際に反復継続するか否かは問われず、その可能性があれば足ります。そのため、反復継続して建築することを予定したハウスメーカーなどが提供する建築物のデザインに限られる訳ではありません。
意匠登録には創作非容易性が認められる必要もあります(意匠法3条2項)。そのため、ありふれた方法で、公知・周知デザインの置き換え、寄せ集め、配置変更、構成比率の変更等を行っただけの場合は認められません。しかし、我が国における建築物のデザインが、ヨーロッパにおける様式主義にはじまり、モダニズムやポストモダニズムなど、ある種のアンチテーゼや過去の見直しの繰り返しの中で生成・発展してきたことを考えると、これを厳格に捉えた場合、はたしてどのような場合に創作非容易性が認められるのかという疑問もあるように思います。
建築物に対する意匠権制度は始まったばかりですが、産業競争力の強化を図りつつ、デザインの自由も確保するバランスの取れた運用が望まれます。